アメリカの反応

 スイスの、とあるモーテルの一室。
テーブルを囲んで、ダレン、サットン、メリッサ、グレンはそれぞれのソファに腰掛けていた。
黒服の報告を聞いてダレンは言った。
「ロードス島か。しかし飛行船を使うとはな。ガキどもにしては良くやるわい」
モッド親方が大声で怒鳴っていたので、黒服達は特に苦労する事もなく目的地を知る事が出来た。
その意味ではモッドは大失態を犯した事になる。
「これで目的地がはっきりした訳ね」
「もう手を出しても良いだろう」
「お待ちを。その前にメリンゲ長官の承認を頂きませんと。それにもう1つ。例のアーン人達が 今度も邪魔しないという保証はありません。それについても手を打ちませんと」
「ふむ、その通りだな。あれが使えれば良いのだが」
「あれ、と言いますと?」
「まぁ良い。サットン、早速CIA長官殿の承認を貰って来てくれ。ま、反対するとは思えんがな」
「分かりました。では早速」
サットンは立ち上がると、部屋を出て行った。

 ラングレーのメリンゲの執務室。
現在メリンゲはジャクソンの報告に目を通していた。
敵もさるもの、と言ったところか、予想通り調査は難航しそうとの事だ。
そして、注意事項として、サットンについての疑問が書かれてあった。
メリンゲはそれを見て苦笑した。
「流石にジャクソンだな、ちゃんと目をつけている」
その時、電話が鳴った。
「メリンゲだ」
「お忙しい所失礼します、サットン局員から緊急の連絡が入っております」
「よし、廻してくれ」
しばらくしてから、サットンが出てきた。
「メリンゲ長官、お久し振りです」
「うむ、でその後例の娘はどうしている?」
「それです、やつらは飛行船を手に入れ、ロードス島へ向かうとの事です」
「何、ロードス島だと?」
「はい、目的までは探れませんでしたが」
「ふむ、なる程」
「それで、早速追跡をしたいと思います。長官の許可を頂きたいのですが」
「まぁ、待て」
「これから大統領に事の次第を報告し、対策を検討するところだ。お前の報告はそういう意味で は非常に良いタイミングだったな」
「そうですか」 「しばらく待機していろ、恐らく追跡し、捕獲してもらう事になる」
「ありがとうございます。それともう1つ。今回も情報が漏れてアーン人達が襲撃してこないとも 限りません。それについても手を打ちませんと」
「その可能性は否定できんな。既に一度起こってしまっている。何とか考えるとしよう。そうそ う、そう言えばダレン海少佐が一緒だそうだな」
「は!」
「よろしく言っておいてくれたまえ。事によると海軍にも働いてもらう事になるかもしれん」
「分かりました」
「ではよろしく頼む」
言ってメリンゲは受話器を置いた。
「さて、と」
メリンゲは机の上のブリーフケースを開け、一枚の紙切れに今のサットンの報告を追記し、再び ブリーフケースを閉じた。
そして立ち上がると、執務室を後にした。
ホワイトハウスでの会議に出かけるのである。

 数刻後。
ホワイトハウスの大統領執務室には、合衆国の重鎮達が顔を揃えていた。
マイケル・ジョンソン大統領。
オーエン・マカリー副大統領。
アレン・ウィットン国防長官。
ジェラルド・ドーン国務長官。
そしてロナルド・メリンゲCIA長官である。
「皆、忙しい所を良く集まってくれた。ではメリンゲ君、早速始めてくれたまえ」
「はい。現在まででアーン人に関して分かっている事を先ず報告します。アーン人は約1万年前 に栄えた文明であり、そして驚異的な身体能力の持ち主達でした。例えば、鉄板を素手でぶち破 る、と言った類です。そして現在まで生き長らえています。これは大変お恥ずかしい事ですが、 我がCIAの超機密事項があっさりと外部に漏れてしまいました。ヨークシャーで起こった襲撃事件 がそれですが、部下の報告によれば相手はあっという間に我がCIAの精鋭達を蹴散らし、全員気絶 させてしまったそうです。そして例のアーン人の生き残りとされる娘は逃げ出してしまいました。 この事から、私どもは襲撃者をアーン人の末裔達と断定し、そして我らの組織の中に彼らが喰いこ んでいるとの結論に達しました」
「とすると、2重スパイ、という事かね」
「まぁ、そういう事になります。ただし、これは我がCIAに限った事ではありません。アーン人は 1万年前から現在にいたるまで生き長らえてきました。そして極普通に現地人の中に溶け込んで生 活しているものと思われます。つまり、今回我がCIA内部にアーン人の末裔がいる、との結論に達 しましたが、これは決して我がCIAに限った事ではないと思われます」
「何ですと、つまり我々の部局の中にもアーン人の末裔がいるとおっしゃる訳ですか?」
「はい、ドーン長官。その可能性を否定する事はできません」
「何と言う事だ」
「では、我々の組織内部のアーン人達を早急に突き止めねばなりませんな」
「そう簡単にいくでしょうか?今まで全くその存在を発見する事はできませんでした。そして、 情報が外部に漏れたと分かった現在になっても、どこから漏れたのかさっぱり分からない、と言う のが実情なのです。もしアーン人を突き止めるとしても並大抵の事ではありますまい」
「うーむ」
「で、メリンゲ君、その例の娘とやらはその後どうなったのかね?」
「はい、先程部下から情報が入りました。奴らは飛行船を調達し、ロードス島へ向かっているとの事です」
「ロードス島」
「はい、部下は速やかに追跡し、捕獲したいと言ってきました。私も同じ意見です」
「うむ、それはもちろんだ。今度こそ絶対に逃してはならない」
「ただ懸念されるのは、やはり情報漏れなのです。前回同様、この情報が漏れてまたアーン人達 に襲撃されるかも知れません」
「むむむ、現在の状況から鑑みるに、それは否定できない事実だな」 「そこで、私としましては強化兵の使用を許可して頂きたいのです」
「強化兵!」
「エティラは最早実用段階に入っているのかね?」
「は、私の部下のサットンという者も実は強化兵であります。サットンだけは前回の襲撃の際、 何とかアーン人達と渡り合う事が出来たようです」
「ならば反対する必要は無い、強化兵の使用を許可しよう」
「ありがとうございます」
「後はどうやって追跡するかだな」
「これはウィットン長官のご助力をお願いしたいと思います」
「ほう、私に何をしろと?」
「あれの使用を許可して頂きたいのです」
「あれ、と言うと、まさか・・」
「そう、ゴルドナです」
「ゴルドナ!」
「ウィットン君、ゴルドナは既に完成しているのかね?」
「は!最早整備も済み、万全の状態になっております」
「だが、使用したら近隣諸国が黙ってはいまい。アメリカがこんな兵器を隠していた等と叩かれる事になりますぞ」
「しかしマカリー副大統領、アーン人の脅威を考えますと、ゴルドナを使用する以外、手段は無いと思われます」
「ウィットン君、君はどう思うね?」
「はい、アーン人の連中がメリンゲ長官のおっしゃるような連中であれば、ゴルドナを使用する以外手段は無いと思われます」
「では決まりだ、ウィットン君、早速手配してくれたまえ」
「は!」
「幸いな事に、現在私の部下のサットンはダレン海少佐と行動を共にしているようです。彼らを 合流させれば、仕事は容易になると思います」
「そうですね、我々はアーン人に関してはCIA程の知識は持っておりません。是非協力をお願いしたい」
「ではこれで全て決まりだな。ゴルドナに強化兵を乗せ、例の娘を捕獲する事に全力を注ぐよう。 分かっていると思うがメリンゲ君、今度の失敗は許されないぞ。我々は既に手痛い打撃を喰らっ ている」
「分かっております、大統領閣下」
「ではこれまで、諸君の奮闘に期待する」
ジョンソンの言葉で全員立ち上がり、一礼して大統領執務室を退室していった。
「ゴルドナか」
ジョンソンはつぶやくと、机の上に溜まっている書類の山にとりかかった。
彼にとっては、アーン人の事も数ある仕事の1つに過ぎない・・