アーン人の歴史8

「くうぅっ!」
凄まじい大爆発に6人の守護者達も思わず体を屈ませた。
6つの力の相互作用はそれ程凄まじかったのである。
だがナワリエは爆発の中心に目を光らせていた。
そしてある物を見定めたのか、爆風の中を真っ直ぐに進んでいった。
一直線に爆心を目指し、そしてある物をしっかりとその手に握り締めると反対側から出てきた。
「ナワリエ殿!」
爆風から出てきたナワリエにサイクロナスが呼びかけた。
「大丈夫だ、手に入れたぞ!終にやったのだ!逆賊ディモットは死んだ!」
ナワリエは誇らしげに言うと、手にしたシドの時間石を見た。
それは青白く輝いていた。
「やったぞぉー!」
サイクロナスが怒鳴ると、万人のアーン人達が大歓声で応えた。
ナワリエはしばらくその光景を眺めていたが、
「まだやるべき事が残っている。ディモットの部下達を始末しなくてはいけない」
直ちに建物の中に残っていたディモットの部下達とアクロスを捕らえさせた。
アーン人達は彼らを押さえつけて、ナワリエの前に引き釣出した。
ナワリエと6人の守護者達は彼らを見据えて協議を始めた。
「彼らをどうしたものか?」
「情状酌量の余地は無いだろう、死刑が妥当だ」
「私もそう思う」
「俺もだ」
全員一致で、彼等は死刑となった。
彼等は押さえつけられたまま、次々と首を落とされていった。
「覚えていろ、ナワリエ!この恨みは必ず晴らす!」
アクロスは死に際に大声で雄たけびを上げた。
「逆賊に相応しい最後ね」
エレンが哀れみも見せずに言った。
「さぁ、これで今度はゴルバードが居なくなってしまった。この状態を続ける訳にはいかない。こ れから直ちにゴルバードを選出してもらおうではないか」
ナワリエはゴルバディア達に言った。
とは言うものの、こんな事態があった後である。
ゴルバディア達はおお揉めに揉めたが、やがて知力、体力、気力共に随一と目された、メリルと呼ばれる者が選出された。
「諸君、新しいゴルバードを祝福せよ!」
ナワリエが言うと、万人のアーン人達は歓声を上げてメリルを称えた。
「さて、これからこのシドの時間石はメリル殿に返上する事になるのだが」
ナワリエはメリルと6人の守護者達の方を向いて言った。
「どうしたものだろう?別にメリル殿を信頼しない訳では無いが、万が一この石の力を悪用され、 今回のディモットの様になってしまっては、我々としては手の下し様が無い。今回は僥倖にも6人 の守護者達の力を結集してディモットを倒せたが、同じ方法が通用するとは思えん」
「ナワリエ殿の危惧は尤もなものだ。万が一、また反乱が起こってしまっては、我々の力を結集し ても防ぎきれないかもしれない」
「そうだな、メリル殿は良いとしても、その後継者達の中から新たなディモットが生まれるかもしれない」
「ではどうすると言うの?」
「こうしよう。この石を安置する為の塔を建設し、石は塔の最上階に安置する。石は箱の中に入れ、 そして最上階へ入る扉と箱とに鍵をする。この鍵を副官達に持たせることにしよう。その上で、私 が自ら箱を置いた祭壇に結界を張る。この結界は、ゴルバードでなくては破る事は出来ない」
「それは名案だ、それでいこう」
「では、その時まで石は私が預かっておこう。塔が竣工したら、これをメリル殿に返上する事にしよう」
こうして、ディモットの乱はひとまず収まり、アーン人達は再び世界各地に散って行った。
ゴルバディア達はその日から塔の建設を始めた。
やがて塔の建設が終わると、その旨を伝える使者達がナワリエと6人の守護者達に向けて走らされた。
彼等は再びゴルバディアに集結した。
「サイクロナス殿、何だそれは?」
サイクロナスは8つの水晶球を持って来た。
「ペレグリンさ」
「ペレグリン?」
「ほら、あのディモットとアクロスが連絡用に使っていた水晶球だよ」
「あぁ、そう言えば」
「こいつがあれば、もう使者を一々送る必要は無いというものだ。便利そうなので全員分作って来た」
「それは素晴らしいわ、随分楽になるわね」
「全くだ、よくやってくれた、サイクロナス殿」
ナワリエ、メリルと6人の守護者達は、各々1つずつ、ペレグリンを手にした。
「さぁ、では行くとしよう」
メリルに先導され、ゴルバディアの2人の副官、ナワリエ、そして6人の守護者達が続いた。
塔は5階建てであり、その最上階に祭壇があった。
ナワリエはその祭壇上の箱の中に、シドの時間石を置いた。
「これで良い、ではメリル殿」
「分かった」
メリルに指示されて、副官の1人が箱に鍵を掛けた。
鍵は副官が大切に保管した。
一行はその部屋を出て扉を閉めると、もう1人の副官が扉に鍵を掛けた。
鍵はその副官が大切に保管した。
これらの作業が終わった後、メリルは全気力を振り絞ってその部屋に結界を張った。
「さぁ、これで良い。もう2度と、シドの時間石を乱用する事は出来ない」
一行は塔の外へ出た。
「これで、シドの時間石については片付いたが・・」
「まだ何かあるのか、メリル殿?」
「うむ、今回、我々が持つ石の力を乱用すると、計り知れない被害を蒙る事が分かった。しかし、そ れは何もシドの時間石に限った事では無いはずだ」
「なる程、他の石も乱用されたら大変な事になるな」
「そうだな、気の力は我々は誰でも中和できるが、光、闇、火、水、土、風の力は誰でも中和できる訳では無い」
「そうね、私達の石も同じ様に封印しておく必要があるわね」
「こうしよう、6人の守護者達が持つ石は、6人の守護者全員の賛同を得た時だけ、使用出来るようにするのだ」
「と言うと?」
「つまり、全ての石について、6人の守護者達が6重に結界を張る。もし、誰かが石を使用したい場合 は、6人全員の承認を得て、結界を解いて貰うのだ。その時だけ、石の力を使用する事が出来る」
「それは良い。是非そうしよう」
こうして、6人の守護者達は各々の地へ戻り、その町の中心に神殿を築き始めた。
神殿の中には祭壇を作り、その祭壇の中に石をしまいこんだ。
この石は、6人の守護者達が命じた時にだけ、祭壇の中から出てくる。
次に、神殿の周りに6本の柱を築き、その上辺の中心に、それぞれ光、闇、火、水、風、土の記号を彫り込んだ。
こうして作業が各地で終了すると、6人の守護者達とナワリエ、メリルは再び集結した。
と言っても、今度は実際に会う必要は無い。
ペレグリンが他の者達を呼び出してくれるからだ。
「よろしい、ではジオの白光石から始めよう」
6人の守護者達は、順番に結界を張っていった。
6つの石全てについて、この作業を行った。
こうして、6人の守護者達が持つ石は全て封印されたのである。


「じゃあ、私達がチリ沖で見つけたのは」
思わずメリッサがつぶやいた。
「そう、君達が見つけたのは、古代アーン人達が築いた神殿の1つ。場所からいってネンデリアのもの だろう。そこにはラーの青水石が眠っているはずだ」
「何ですって・・、今でもあると言うの?」
「そうだ。そして君達がインド沖で見つけた神殿にはマナの黒闇石が眠っているはずだ」
「何て事なの・・。そんな危険なものが、現在にあるなんて!」
「しかし、事実だよ」
スウィフトリアは諭すように言った。