アーン人の歴史7

「最後にもう一度だけチャンスをやろう。素直にわしの支配下に入る事を認めるならばそれで良し。さもなくば、全員この場で皆殺しじゃ!」
「あの野郎!」
「止めるんだ、ガイガス殿。焦っては奴の思う壺だ!」
しかし一部の激昂したアーン人達はディモット目掛けて殺到した。
「くたばれ老いぼれ!」
「その白髪首!我らが同朋の墓の前に曝してやる!」
「うはははは、身の程知らずの愚か者どもめが!そんなに死にたければ望み通りにしてやるぞ!」
次ぎの瞬間、ディモット目掛けて殺到していたアーン人達は全員胸に風穴を開けていた。
「な、何だ・・?」
「ち、畜生・・・!」
彼らは全員地面に叩きつけられて死んでいった。
「こ、これが・・、シドの時間石の力?」
「だが奴は何もやっていない!何もやっていないんだ!」
「そうだ、奴が気を使えば我々には直ぐ分かる。だが奴は何もやっていない」
「では何故彼らは死んだのだ?」
「何をやったんだ、奴は?」
「何もやっていない・・」
ナワリエは考えた。
もうこれは完全にシドの時間石の力のなせる技である。
その他の手段であるのならば、フェルノールたる自分に分からないはずは無いし、6人の守護者達にも分からないはずは無い。
「奴は、何の力も使っていないのか?」
「光の力は使ってないわ」
「闇の力もだ」
「火の力もな」
「水も同じ!」
「土も使っていない」
「風もだ」
「そして空間の力もだ。となると残るは・・・」
この時に到って、ようやく全員が何事が起こっていたかを悟った。
「時間の力!」
「時を・・時を止めていたんだ。時を止めてその間に我々の配下達を殺したんだ!」
「時間を止めるですって・・!」
「どうする?俺達の力ではとてもじゃないが太刀打ちできる力じゃないぞ!何をしても全部時間を止められたら、その間に俺達は殺される!」
「せめてミラの空間石があれば!」
「それを今更言っても始まらない。今!我々の力で!何としてもあの反逆者を倒さなければ、アーン人の歴史が闇に包まれてしまう」
「だがどうやって倒す?」
「そうだ、俺達の力ではとてもじゃないが勝てないぞ!」
「どうした、降伏の会議かね?早くしてもらいたいのぅ。わしもそんなに気が長い方では無いのでな、わははははは!」
「くそ、あの野郎!」
「聞け!」
その時、ナワリエが言った。
ナワリエは6人の守護者達を集めて何事かを囁いた。
6人の守護者達は黙って聞いていた。やがて
「しかし、仲間をむざむざ殺すのか?」
「でも、他に方法は無いのではなくて?私には他の方法は思いつかないわ」
「俺もだ!これしか無い」
「うむ!」
「では決定だ!各自、早速行動に移ってくれ!」
言われて6人の守護者達は各々の部隊に戻って行った。
そして何事かを命令した。
やがて、彼らからナワリエに向けて準備完了の旨がテレパシーによって伝えられてきた。
「ようし」
ナワリエは自分に言い聞かせるように言うと、
「逆賊ディモット!」
と大音声で呼ばわった。
「何じゃ若造!降伏の受諾かね?」
「これが最後のチャンスだ。素直に降伏するのならばそれで良し。さもなくば今日がお前の命日になるぞ!」
「これはこれは。耳が遠くなったのかのぅ?今危機に瀕しておるのはお前さんの方じゃないのかの?わしに向かってそんな口を叩いて良いのか?」
「ではどうあっても逆らうというのだな?」
「ふん、若造が急にフェルノールになってのぼせ上がりおったか。笑止笑止!では最後の言葉を聞いてから殺してやろう」
「そのお言葉はそっくりお返ししよう」
ナワリエの言葉が終わると、アーン人達がディモットを取り囲んだ。
ディモットはこの時既に建物の上空に浮いていた。
アーン人はそのディモットの上下左右前後を10人ずつ、各部族が取り囲んだ。
「ふん、何をするかと思えばこんな事か!先程のシュラクネリア達と同じ運命を辿るだけよ!」
「それはどうかな?やれ!」
ナワリエの命令が発せられると、彼等は一斉に気の矢を発した。
「無駄な事よ、何度繰り返そうが同じ結果が残るだけじゃ!」
ディモットはシドの時間石に気を集中させた。
「時よ止まれ!」
ディモットは心で念じ、シドの時間石の力を発動させた。
瞬間!全世界が停止した。
ディモットを目掛けて飛んでいた気の矢も全部停止した。
ディモットを取り囲んでいるアーン人達も、その他のナワリエを初めとするアーン人も、いや太陽も風も水も大地も全てが停止した。
「結局、無駄な死人が増えると言う訳じゃな」
ディモットは全方向に気を発した。
気の矢は全てかき消されてしまった。
「哀れな者どもよ、さらばじゃ!」
ディモットは彼を取り囲んでいるアーン人を1人1人、気の矢を使って順番に殺していった。
「何をしようと、どうあがこうと、このシドの時間石が有る限りはわしに勝つ事は出来んのじゃ・・」
ディモットはたった今死んだ、そしてそれに気付いてすらいないアーン人達に向かって哀れむ様に言った。
「時は動き出す・・・」
「う、ぐうぅ・・」
「な、何だ・・?」
「お、おのれ・・!」
各々最後の言葉を残して彼等は死んでいった。
「ふ、哀れな事よ・・・」
ディモットは苦しみ死んでいくアーン人達を見てつぶやいた。
が、しかし!そのアーン人達がいきなり光に飲み込まれた。
ディモットは驚愕した。
「なぁにぃ!時よ止まれ!」
慌てて時間を止めた。
しかし、ディモットは眼前に迫り来る光の壁を見た。
間違いなくリーネンが発した、光の力である。
「くっ・・!」
慌てて横を見ると、水の壁が迫っている。
「これは・・・、まさか・・!」
上を見た。
風の壁が迫っている。
下からは闇の壁が迫っている。
後ろからは土の壁が、最後の方向からは火の壁が迫っていた。
「ま、まさか・・、こんな事が・・!」
脱出は不可能であった。
ディモットが持っているのは時間の力だけである。
通常のアーン人が持つ気の力はディモットでも中和する事は出来るし、現にした。
しかし、6人の守護者の力、光、闇、火、水、土、風の力は中和する事は出来ない。
それが出来るのは6人の守護者、もしくは失われたアーンの皇帝だけである。
ディモットは絶望を悟らざるを得なかった。
何処にも逃げ場は無い。
全方向を囲まれてしまったのだ。
初めのアーン人達はおとりだったのだ。
自ら死を決した、決死隊だったのである。
「うおぉぉーー!」
ディモットは雄たけびを上げた。
しかしどうする事も出来ない。
もう逃げる事は出来ないのである。
時間を止めている間は生きている事は出来る。
しかし、永久に時間を止めていられる訳では無い。
ディモットの力が尽きる時が、ディモットの最後である。
「ま、まさか・・自ら死を決してまでとはな・・。新しいフェルノール、認めざるを得んと言う事か・・」
ディモットは時間停止を解いた。
次ぎの瞬間、大爆発が発生した。
6つの力が相互作用を起こしたのである。
そして、その中心に居たディモットは塵になった。