アーン人の歴史6

 新しいフェルノール、ナワリエと6人の守護者たちの侵攻を受けたゴルバディア達は蜂の巣を突付いた様な騒ぎになった。
「静まれ、静まらんか!」
ディモットは何とかゴルバディア達を静まらせた。
「これしきの事で騒ぐではない。奴らが来た所で何が出来ると言うのだ?奴らはミラの空間石 を失っておるのだぞ。このシドの時間石さえあれば、例えフェルノールと6人の守護者達が束に なって繋って来たとて、物の数では無いわ!」
「お言葉を返す様ですが、こうなったのはあなたの責任なのではありませんか?」
「何じゃと?」
「そうです、我々はフェルノール選出の際にこんな陰謀が企まれていた等とは全く知らさせれ ておりませんでした。我々に正義があるとは到底思えません。我々がアクロスを匿う理由があ るのでしょうか?」
「愚か者どもが!」
思わずディモットは声を荒げた。
「良く考えてみるが良い。かつてアーン帝国が崩壊した際、我らアーン人を束ねる皇帝は居な くなった。後に残された我々は各々に分かれて全世界に散って行った。皇帝亡き後、アーン人 を束ねるのは誰か?それは枢機卿たるこのわしか、宰相たるモーンしか居なかったのだ!しか しモーンは死んだ。となれば、残るはこのわししかおらんじゃろうが!わしこそ全アーン人の 頂点に立ち、アーン人を支配するのじゃ。そしてそのわしを支えるのが、お前達ゴルバディア の使命ではないか!それがなんじゃ!この程度の事態でうろたえおって!お前達はそれでも栄 光あるゴルバディアか?お前達こそ全アーン人を支配する者達では無いか!」
「そうだ、その通りだ!」
「我々こそ、アーン人を導く者達なのだ!」
ゴルバディアの一部から上がったこの言葉を聞いて、ディモットは大いに気を良くした。
しかし、直ぐに反論が上がった。
「一体いつ我々が全アーン人の頂点に立つ、等と決められたのだ?我々はあくまでもゴルバー ドを守護し、アーン人全体の信仰を司る神官ではなかったのか?」
「そうだ。しかもアーン人達が世界各国に散ってしまった今、全アーン人を支配する等とは夢物語に過ぎない!」
「黙って聴いていれば愚かな事を!ミラの空間石を失ったフェルノリア達に何が出来るのだ!」
再びゴルバディア達は凄まじい討論を再開した。
そうこうしている内に、既にナワリエは達はゴルバディアに到着し、周囲を包囲した。
「反逆者ディモット!出て来い!」
ナワリエは大声で呼ばわった。
この声でゴルバディア達は黙った。
この声に応じてディモットは建物の窓から顔を出して大声で応えた。
「俄か作りの偽フェルノールが何の用じゃ!」
「黙れこの反逆者!貴様のやった悪事は既に白日の下に曝されているわ!素直に罪を認め、ア クロスと共に去るのならそれで良し、さもなければ天罰を下す事になる」
「わははは、これは愉快な事を聞くものかな!」
ディモットは大いに哄笑して言った。
「ミラの空間石を失った貴様に何が出来ると言うのだ?貴様の頼りは6人の守護者達の力のみじゃ ろうが?笑止笑止!奴らの力なぞ、シドの時間石の前には全く無力のものよ!」
「老いぼれが僅かな力を得て何を誇るか!貴様は配下の統率すら出来てはいないではないか! それで良くもゴルバードを名乗れたものだ!潔くシドの時間石を置いてアクロスと共にこの地 を立ち去れ!」
「せいぜいほざくが良い!このわしを追い払えるものならやってみろ!ゴルバードの力を存分に堪能させてやるわ!」
このやり取りを聞いていたゴルバディア達の一部が先を争ってナワリエの元へ走り始めた。
「私達はディモットについていく気は毛頭ありません」
「今回の事は今日初めて知ったのです。どうか我々をこちらの陣に加えて下さい」
これを見たディモットは激怒して言った。
「この大馬鹿者どもが!それが栄えあるゴルバディアのする事か!貴様らもその若造と同じ 運命を辿らせてやる。ゴルバードの力を思い知るが良い!」
ナワリエは続々と投降して来るゴルバディア達を見て大声で言った。
「さぁ、お前達もさっさとこちらに来るが良い。そんな発狂した反逆者に殉じる事も有るまい。もう奴の運命は決まっているのだ」
これを聞いてもうゴルバディア達の大半が雪崩を打ったようにナワリエ達目指して駈け始めた。
もうディモットがどんなに制止しても無駄であった。
建物に残ったのはほんの少数のゴルバディア達、彼らはディモットの側近達であった。
そしてアクロスとディモットだけであった。
「逆賊ディモット!まだ逆らうか!最早貴様の配下達すら貴様を見捨てたではないか!潔く投降し、何処えなりと消えてしまえ!」
「この愚か者めが!貴様らが幾ら勝ち誇ろうとも、このシドの時間石さえある限り、このわしを倒す事は決して出来んわ!」
「最早これ以上奴にかける哀れみは無し。さぁ者ども!あの逆賊の首を挙げて、アーンの歴史に正義の1ページを刻むのだ!」
ナワリエの号令の元、ゴルバディア、フェルノリア、リネリア、シュラクネリア、フィリオリ ア、ネンデリア、アルバシア、ウィンデリア、全アーン人達はディモット達がこもる建物に殺 到した。
 しかし!建物に近づいた者は片っ端から首が無くなった。
彼らは最後の声も上げずにゆっくりと倒れた。
首はその死体の近くに転がっていた。
殺到していたアーン人達は事態を理解できずに立ちすくんでしまった。
それでも勇気をもって前進する者達も居た。しかし、彼らもいき なり首から上が無くなり、同じ様に倒れていった。
「何だ、何が起こっている?」
「わはははは!」
ディモットの悪意に満ちた哄笑が起こった。
「だから言ったではないか、この愚か者どもめが!貴様らが幾ら頑張った所で、このディモット 様を倒す事は出来ん!今死んでいった奴らと同じ運命を辿るだけよ!」
「これは・・、何だ?」
「ナワリエ殿、何が起こっているのか分かるか?」
「いや、誰か分かるか?」
6人の守護者達も答える事は出来なかった。
「くたばれ、老いぼれ!」
1人のシュラクネリアがディモット目掛けて気の矢を発した。
「わはははは、無駄な事よ!」
矢は突然消えてしまった。そして気の矢を発したシュラクネリアが逆に気の矢に貫かれた様に、 体の真中に風穴を開けていた。
「な、何だ?何が・・起こった・・?」
そのシュラクネリアは最後まで謎を抱えたまま死んでいった。
「おのれ、よくも!」
仲間の死に憤ったシュラクネリア達は激昂してディモットを取り囲んだ。
「いかな技を使ったかは知らんが、こう周囲を囲んでしまえば何も出来まい!今度こそくたばれ 老いぼれ!」
シュラクネリア達は一斉に気の矢を放った。
「この愚かさよ!何をしようと!どうあがこうと!貴様らはわしの敵では無いわ!」
ディモットが哄笑すると、次ぎの瞬間には気の矢は全部消え失せ、逆にシュラクネリア達がやは り気の矢に貫かれた様に体の真中に風穴を開けていた。
「な、馬鹿な・・」
「な、何故だ・・、何なんだこれは・・」
シュラクネリア達は力尽きて空中から地面へと叩きつけられた。
そのまま死んでしまった。
「奴は・・何をした?」
「よくも、俺の部下達を!」
「待てジャップ殿!いたずらに近づいても、同じ運命を辿るだけだぞ!」
「しかし、ナワリエ殿!部下を殺されて黙っていられるか!」
「どうしたのじゃ、愚か者ども!もうかかってはこんのか?貴様らが素直に敗北を認め、我が支 配下に入るのならば良し、さもなければ今死んだ奴らと同じ運命を辿らせてやるぞ!」
「畜生、黙って聞いていれば言いたい事言いやがって!」
「焦っては駄目!冷静になるのよサイクロナス!」
「しかし、このままでは!」
頭領達の混乱はそのまま部下達にも伝わった。
何が起こっているのかさっぱり分からない。
近付こうとすると、いきなり首から上が無くなってしまうのである。
かと言って、気の矢を発しても、それは途中で消えてしまい、逆にこちらが貫かれた様になって死んでしまう。
その場には勝ち誇ったディモットの哄笑がこだました。