会見2

「さて、もう少し質問を続けさせてもらおう」
なんとかその場をなだめたスウィフトリアはメリッサに向かって質問を続けた。
「あのダレン少佐とか言う人物について聞きたい」
「海軍の少佐よ、それ以外の事は知らないわ」
「あれに関してもかね?」
「あれ?」
「あれだよ」
スウィフトリアは言って、ダレンがぶち破った鉄板の方を指差した。
メリッサはその穴を見て
「一体どんな武器を使った訳?」
「武器じゃない、素手だよ。ダレン少佐が素手でぶち破ったのだ」
「まさか、本気でそんな話をしている訳じゃないでしょうね?」
スウィフトリアはやれやれと言った感じで首を振って
「百聞は一見に如かず、と言うな」
言うと、ダレンが空けた穴の横に同じ様な穴をぶち空けた。
メリッサは口をあんぐり開けて固まってしまった。
「どうやら、本当に知らないようだな」
「ダ、ダレン少佐が・・」
メリッサはまだ目の前の光景を信じる事が出来ない様である。
「ダレン少佐が、あなたみたいな化物だって言う訳?」
「そう言う事だ。彼は私よりは力は弱いが、まぁこれ位は出来るようだ」
「嘘でしょ、そんな事・・」
「ダレン少佐だけでは無い、サットンとか言う男も同じ事が出来る」
「サットンが!」
「彼らに付いて、何も知らないのかね?」
「知らないわ、ダレン少佐もサットンも今回の件で初めて知り合ったのよ。こんな化物みたいな力 の持ち主だなんて、何も聞かされていなかったわ。2人とも、優秀な人間だ、とは聞いていたけど」
「ふーむ」
スウィフトリアは腕を組んで考え込んだ。
メリッサは嘘はついていない様だ。
さっきの驚きの表情を見ればそれは分かる。
とても普通の人間では考えられない事だからだ。
「よろしい、ではあなたへの質問は終わる事にしよう。今度はエレ君に尋ねる事がある」
スウィフトリアはエレの方に向き直った。
エレはスウィフトリアの視線を真正面から受け止めた。
「ずばり言おう、君はミラの空間石を求めて旅をしている、違うかね?」
エレはどう応えて良いものかしばらく悩んでいたようだが、やがて
「そうよ」
「やはり。そして、ミラの空間石を使って我々とアメリカに対抗しようとしていた、そうだね?」
「そうよ」
「我々の思った通りだ。つまり、君はミラの空間石のありかを知っている。そしてそれはロードス島なのだね?」
「正確には違うわ」
「うん?」
「正確に言えば、ロードス島の近くの海底に埋もれているのよ。正確な場所はまだ分からないわ。海底を調査しなくてはね」
「なる程、良く分かった」
スウィフトリアは大きく頷くと、
「君もカリエルの子孫であるならば、我々がどれだけ必死になってミラの空間石を探し続けてきた か分かるだろう?カリエルが太古に持ち去ってしまって以来、我々は必死になってカリエルの後を 追い続けてきた。しかしどうしても行方を突き止める事はできなかった。だが!今とうとう君と言 う人を見つけた。我々が長年探し続けてきた人物に終に巡り会えたのだ」
スウィフトリアは目を閉じて顔を上げた。
エレを発見した時の喜びを思い出しているのかもしれない。
「我々の喜びがどれ程のものか、君には分かるまい。数千年の時を経てようやく探し当てた。終に ミラの空間石が我々の元に戻ってくる時が来たのだ」
スウィフトリアは目を開けて、再びエレを見た。
「現代のフェルノール、つまり宰相はジオン・ガブリエル殿だ。彼はもし君が真実カリエルの子孫 であるならば、フェルノールの座を譲っても良い、と初めは考えていた。我々としても、彼がそう 言うのであれば別に反対する理由は無い。しかし、事態は思わぬ展開を見せ始めてしまった。初め は君を知る者は極少数の人間だけだった。だから我々が列車を襲った時も相手を殺す事はしなかっ た。君さえこちら側で保護してしまえば、連中がどうしようが手の出せない所に匿える、と考えた のだ。ところが君はあの列車から脱出してしまった。そしてその翌日にイギリス中のテレビに出る 事になってしまった。分かるかね?君は要するに知られすぎてしまった人間になったのだ。これは 我々としては計算外の事だった。我々アーン人はこの1万年の間、営々と秘密を守り続けてきた。そ の間に何度悲惨な出来事があった事か!2度の世界大戦やら、民族の大移動やら、およそ現在知られ ているあらゆる歴史に巻添えになった。だがそれでも血のにじむ思いをして秘密を守り続けてきた のだ。それが、ひょんな事から君が突然歴史の表舞台に引きずり出されてしまった。これには非常 に困惑した。そして現代のアーン人の頭領達が協議して、ある結論を出した。君からミラの空間石 の場所を聞き出した後、君をこの世から消す、と言うものだった」
「そんなのあんまりだ!」
思わずピーターが叫んだ。
「全く持って、君の言う通りだよ、ピーター君。しかし、情けない事だが事実なのだ。我々アーン 人は秘密を守る為にどんな犠牲をも払ってきた。どうしてエレ君だけを例外に出来ようか?我々と しても、苦渋の決断だったのだ」
「でも!」
「まぁ、話は最後まで聞きたまえ。取り敢えずその結論に達したのだが、事態は更に予想外の方向 に進み始めたのだ。シュラク教授がアーン人の遺跡を発見してしまった。そして今度はナスカヤ君 も巻き込まれる事になった。更にピーター君、君の奮闘のお蔭でエレ君は我々とアメリカの手を逃 れて動き始めた。この間にアメリカが予想外の努力をし、我々についてかなりの知識を持つ様にな った。そして、これが我々が最も恐れていた事なのだが、アメリカは現代に我々が生きている、と 言う結論に達してしまったのだ。つまり、もう話はエレ君だけでは無い、我々自体が歴史の表舞台 に引きずり出されてしまったのだよ。事こうなってしまってはもうエレ君だけを殺しても全くの無 駄と言うものだ。これ以上アーン人の秘密を守ろうとするならば、我々は全員自殺をする羽目にな る。さっきのやり取りを聞いていたと思うが、ダレンとか言う男はリネリアの事も、そしてリーネ ンの事も知っていた。もう我々の事は完全に彼らに知られてしまっているのだ。となると、残され た道はもう1つしかない。奴らとの全面戦争だ」
「全面戦争・・」
「そうだ。もうアメリカは我々アーン人の事を完全に把握している。そして、列車を襲った事やこ の船を奪還した事で、我々の仲間、フィリオールと呼ばれる部族だが、彼らがアメリカの中枢にま で浸透している事にも気が付いたはずだ。だからもう戦争は避ける事は出来ないのだよ」
ピーターには途中から訳が分からなくなりつつあった。
唯自分が何か途方も無い事に巻き込まれてしまっている事だけは何とか認識できた。
「良いかね?奴らは君達がロードス島へ向かっている事を知っている。今回の襲撃でエレ君を手中 に収める積りだったんだろうが、それが失敗した以上、今度はロードス島で仕掛けてくるに違いな い。我々としては、それに対して何かしらの手を打たなくてはならない。これから君達にアーン人 の頭領達に会ってもらおう。その会議で今後の手段を講ずる事にする」
「ちょっと待った!この船にはロードス島までの往復分しか燃料は積んでおらんぞい、他のどこかへ行く事は不可能じゃ」
「その心配は無い、これがある」
言ってスウィフトリアはペレグリンを取り出した。
「その水晶球、何です?」
「これはペレグリンと言って、これを使えばどんなに遠方に居る人間にもその場で会う事が出来る。 エレ君から聞いていなかったのか・・、あ、そうか、エレ君はカリエルの子孫だったね。それじゃ あペレグリンを知る訳が無い、これはカリエルが失踪した後に作られた物だからね」
「何があったんです、カリエルが失踪した後に?」
「ちょっと待った、何じゃいそのカリエルと言うのは?」
エレはカリエルの出来事を簡単にベイツに説明した。
かなりはしょったが、何とか理解はしてもらえたようだ。
「では今度は、私がカリエル失踪後のアーン人の歴史について話そう」
言うと、スウィフトリアはアーン人の歴史について語り始めた。