対峙

 ダレンはゆっくりと振り向きながら言った。
「これはこれは、ご招待した覚えはないはずだが?」
「失礼の段はお詫びしよう、と言っても、そちらもご婦人方にかなりの失礼をしたようだが」
「ふん」
ダレンはスウィフトリアを正視した。
そして思わず唸らずにはいられなかった。
凄まじい迫力の様な圧迫感を感じるのである。
半端な力の持ち主では無いことが、容易に推察された。
「察するところ、アーン人の方とお見受けする。リネリアと呼ばれる方のようだな。ヨークシャーで はこちらのサットンが随分とお世話になったようだな」
「ほう、そこまでご存知とは、流石にCIAだな」
「わしはCIAではない。アメリカ海軍少佐、ダレン・マクドナルドだ。CIAはこっちのサットンだ」
「それは失礼した。自己紹介されたからにはこちらも自己紹介をする事にしよう。いかにも私はリネ リア、いやそのリネリアを束ねるリーネン、スウィフトリア・ヴィルヌーヴだ」
「何リーネンだと!」
ダレンは思わず叫んだ。
ピーター達も驚いた。
「すると貴様が光の王か。こいつは驚いた、直々のお出ましとは痛み入る。で、用件は何かな?」
「なに、実に簡単な用件だ。そちらの方々をそっくりお渡し願いたい」
「わはははは」
ダレンは大声で哄笑した。
「実に驚き入ったな。はいどうぞ、と渡すと思うのかね?」
「嫌でも応でもお渡し願う。お前達に身柄を渡す訳にはいかないのでね」
「ふん、ヨークシャーの様に上手くいくと思ったか?我々がお前達の出現を考慮しなかったとでも思っ たのか?この俗物め、貴様の思うようにいくと思ったら大間違いだ!」
ダレンは言い終わるが早いか、胸のポケットから警笛を取り出して吹き鳴らした。
たちまち強化兵達がファルコン号を取り囲んだ。
「今度は貴様も逃がさん、一緒に来てもらおう。貴様とてアーン人だ、それも光の王と来ればその価 値は唯のアーン人等とは比べ物にならん、強化兵ども、こいつをひっ捕らえろ!」
スウィフトリアは目を閉じてリネリア達にテレパシーを送った。
「全員突撃、殺害を許可する。この船の中に居るアメリカ人どもを追い出し、この船をゴルドナから離脱させる事!」

 スウィフトリアの命令をうけたリネリア達は一斉に強化兵達に襲いかかった。
強化兵達は慌てた。
当初の予定では襲撃してくると予想されるアーン人は十数名だったのである。
だが相手は5百名も居た。
あっという間にファルコン号が留められていた甲板上は修羅場と化した。
強化兵達とリネリア達の戦いである。
だが数が違う。
強化兵達は確かに超人的な力を持つ化物揃いではあった。
だがそれはリネリアとて同じである。
1対1の戦いでは何とか互角に戦えたかもしれないが、相手はそんな甘い戦い方はしてくれなかった。
1対複数である。
とても勝負にはならない。
瞬く間に強化兵達は片付けられていった。
通常の水兵達も応戦したが、とてもリネリア達の相手にはならなかった。
たちまち甲板上は死体の山があちこちに出来始めた。
血の匂いがあたり一面に立ち込め、むせ返るようだった。

 一方、食堂ではダレンがスウィフトリアに殴りかかっていた。
ダレンの左手の突きを、スウィフトリアは右手の掌底で受け止めた。
ダレンは驚愕した。
ダレンは掌底をぶち破る積りで突きを放ったのである。
だが相手はがっちりと受け止めた。
最もスウィフトリアも驚愕した。
ダレンの突きもまた、想像以上の力だったのである。
「うぬぬ・・」
思わずダレンは唸った。
今度はスウィフトリアが左手で突きを放った。
ダレンは右手の掌底で受け止めた。
スウィフトリアは再度驚いた。
スウィフトリアも掌底をぶち破る積りで突きを放ったのである。
そのままの体勢で力比べになった。
だがスウィフトリアの方が上だった。
ダレンはじりじりと押され始め、顔を真っ赤にして力を入れた。
ダレンにしてみれば認める事が出来ない現実であった。
自分の力を上回る人間が存在するなど!
あってはならない事である、絶対に!
「おのれ!」
ダレンが叫んで力を入れようとした矢先にスウィフトリアは上体を後にそらした。
ダレンはつんのめってしまった。
スウィフトリアはダレンの腹に思いっきり右足で蹴りをみまった。
ダレンはすっ飛んで壁に激突した。
ダレンは怒りで顔を紅潮させ
「おのれい!覚悟はできておろうな!」
怒号するとスウィフトリアに襲いかかった。
ピーター達の目には止まらない速さで、ダレンは突きや蹴りをスウィフトリアに叩き込んだ。
ピーターにはダレンの手や足が何本もあるように見えた。
だがそんなダレンの攻撃も尽くスウィフトリアは受け止めた。
そして今度は右手の掌底打を再度ダレンの腹に見舞った。
またしてもダレンはすっ飛んで壁に激突した。
どうやら力、技、速さ、全てにおいてスウィフトリアの方が一枚上の様である。
だがそれは、ダレンには絶対に認める事が出来ない事実であった。
「この俗物めが!」
ダレンは怒りの鉄拳をスウィフトリアに見舞った。
だがスウィフトリアはすいとかわした。
ダレンの鉄拳は壁をぶち抜いて大きな穴を空けた。
ピーターは思わず目を見開いてしまった。
その後もダレンは怒りに任せてフルスウィングの鉄拳をスウィフトリアに見舞ったが尽くかわされてしまった。

 サットンはルカと対峙していた。
「やれやれ、この前の列車に居た奴だな。あの時は実に無様だったな」
「そうか、貴様あの時の黒覆面か。あの時のおれはたっぷりとしてやる」
たちまちサットンとルカの間でも格闘戦が始まった。
ピーター達は壁にへばりついて見ているしかできなかった。
こちらの戦闘でもルカの方が一枚上の様である。
サットンも徐々に追い詰められていった。
「ちくしょう!」
サットンは呪いの声を上げてルカに襲い掛かったが、あっさりとかわされてしかも背中をしたたかに蹴られ、壁に激突してしまった。
「こ、この野郎!」
サットンは再度ルカに殴りかかったが、綺麗に背負い投げを喰らってしまった。
凄まじい音と共にサットンは床に叩きつけられてしまった。
 その時である。突如轟音が起こったと思うと、ファルコン号が振動を始めてゆっくりと上昇を始めた。
「馬鹿者!誰が発進命令を出した!」
「私が出したのだ」
怒号するダレンにスウィフトリアが冷静に答えた。
いつの間にやらファルコン号をがんじがらめにしていたワイヤーは全て切断され、ファルコン号はゴルドナの甲板から徐々に上昇を始めた。
「いいのか、さっさと脱出しなくて?このままではお前達はこの船に囚人として捕らえられる事になるぞ」
「くっ、貴様、よくも、よくもこんな!」
ダレンは怒りで爆発寸前だったが、実際問題スウィフトリアの言う通りである。
既に甲板に居た兵隊達は強化兵を含めて全員リネリアに皆殺しにされていたし、ファルコン号を占拠していた兵隊達も全員殺されていた。
残っているのはダレンとサットンだけである。
「貴様、覚えて居ろよ!わしをこんな目に遭わせた事を必ず後悔させてやるわ!」
叫ぶとダレンとサットンは食堂から通路に出て、柵を越えてゴルドナの甲板上に飛び降りた。
「ダレン少佐!」
甲板にはトッド艦長が来ていた。
「奴らが逃げていきます、どうしましょう?」
「撃て、撃って撃って撃ちまくれ!何としてもあの船を撃墜するのだ!」
「いけません、少佐、あの船にはアーン人の生き残りが・・」
サットンは全部言う前にダレンに殴り倒されていた。
「早くしろ、奴らを撃墜するのだ!」
「わ、分かりました」
トッド艦長は慌ててブリッジへ戻って行った。
やがてゴルドナの砲が轟音を挙げ始めた。
だが既にファルコン号はゴルドナからかなり離れていた。
やがてファルコン号は雲の間に消えていった。
「おのれ!おのれ!この恨み!この恥辱!断じて晴らさずにはおくものか!」
ダレンはファルコン号が消えていった雲に向かって吼えた。