エレの話5

 サットン達はそのままチューリッヒまで行くと、飛行機に乗り換えてロンドンまで行き、そこから専用列車に乗り込んでエディンバラを目指した。
そこに本拠地があるのである。
エレは昏々と眠り続けていた。
サットンはエレをある一室に寝かせると、自分達はその隣の部屋に陣取っていた。
列車は一路エディンバラを目指して進んで行く。
「あの娘が、ローガンから一体どれだけの事を伝えられているのか?」
サットンが自分の不安を口にした。
もし何も伝えられていなかったら、全ては終わりである。
「ローガンは自ら死を選んだのでしょう?ならば、少なくとも伝えるべき事は全て伝えてあるはずだわ」
メリッサはサットンの不安を払拭するように言った。
「うん、その通りだな。時間はたっぷりとある。まぁ焦らずにじっくりと聞き出すさ」
列車は山間部に差し掛かった。幾つものトンネルを抜けて走り抜けて行く。
 ふと、エレは目を覚ました。
まだ頭がボーっとしている。
頭を振って、意識をはっきりさせた。
記憶が段々戻ってきた。
覚えているのは、夜道を歩いていたら、いきなり後からハンカチを口に当てられ、妙な臭いを嗅いでから急に意識が無くなってしまった事だった。
ここが一体どこなのかもさっぱり分からなかった。
ただ、荷物が一切無くなっている事に気が付いた。
慌てて胸元を見たが、首飾りの様にしてかけていた例の鍵も無くなっている事に気が付いた。
これはエレを慌てさせた。
ローガンに絶対に手放すなと言われていた鍵である。
考えられる事は、アーン人達の追っ手に捕まってしまった、と言う事だった。
エレはしばらく呆けたようにベッドの上に座り込んでいた。
これから何をされるのか、考えるだけでも恐ろしかった。
と、突然部屋の扉が開いた。
そして見覚えのある顔が入って来た。
ローガンの家で自分が案内した、あの女である。
「ようやく気が付いたようね」
女は言った。エレは黙っていた。
「もう忘れてしまったかも知れないからもう一度自己紹介させて頂くわ、私はメリッサ」
「海洋調査員で考古学者さんだったわね」
「あら、どうも。覚えていてくれていた様ね」
「そんな事より、ここはどこなの?どうして私はこんな所に居るの?おじい様はどうなったの?あなた達は一体誰?どうして私にこんな事をするの?」
メリッサはお手上げと言った感じで溜息をついて言った。
「そんなに一度に訊かれても困るわ。まぁ無理も無いでしょうけど。先ず初めに私は先にも言った通り、海洋調査員で、考古学者よ」
「考古学者が誘拐なんてするの?」
エレは言ったがメリッサは聞き流して続けた。
「次にここは列車の中よ。私達の事務所に向かっている所なの。場所はそうね、そろ そろヨークシャー辺りかしら。あなたにどうしても聞きたい事があったから、こうし て来て貰ったのよ。最後にあなたのおじい様だけど・・・。あなたのおじい様は」
メリッサは流石にうつむいて言いにくそうに言った。
「亡くなったわ」
エレにはメリッサが言った事が理解できなかった。
やがて意味を悟ると
「うそ」
とつぶやいた。そして
「そんなのうそよぉ、おじい様が亡くなったなんて!あなた達ね、あなた達が私のおじい様を殺したんだわ!」
と絶叫した。
エレにとっては到底認め難い事実である。
しかし、その時黒服の男が現れて言った。
「それは違う、我々が殺した訳ではない」
サットンである。
「君のおじい様は誰が殺したのでもない。自殺したんだ」
「うそよぉ!」
「本当だ。どういう理由かは知らないが、君のおじい様は我々の目の前で毒薬を飲ん で自殺した。我々としては、彼に丁重に協力を申し込んだだけなのだ。にも関わらず、 彼はいきなり自殺を遂げてしまったのだ」
「協力?協力ってどういう事?」
「そう、協力だ」
サットンはようやく少し静まったエレの方に歩み寄り、次の様に暗唱した。
「大地の民は大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る
 大地の民は大地に護られ、また大地を護るべし
 大地の民は大地の国に栄える
 大地の国は6人の守護者に護られたり
 
 大地の民は3人の王者を頂く
 第1の王者は天空の大鷲
 第2の王者は地上の巨竜
 第3の王者は全てを統べる全き者
 大鷲は空間の主が司り
 巨竜は時間の主が司り
 全き者は創造の主が司る
 
 大地の民は3人の王者と共に栄えるべし
 なれど彼らもまたいずれは大地に還るべし
 彼らもまた大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る宿命なれば」
暗唱し終わってからサットンはエレに向かい
「君は当然、この詩を知っている、違うかね?」
エレはかすかに首を縦に振った。
「そうだろう、ではこの詩が何を意味するのかも知っているはずだ。6人の守護者、3 人の王者。我々としては、これらが我々人類にとって危険なものかどうかを確認する 必要があるのだよ。もしも、この詩に出てくるものが実在するのであれば、人類にと ってどれほど危険な事か!我々としては、これらを早急に調査する必要があるのだよ」
「もし危険なものであるとしたら、私達は可能な限り速やかにこれらを排除する必要 があるわ」
「そこでだ。君の知っている事を我々に教えて欲しいのだよ。人類の平和を護る為に」