エレの話4

「この詩は当然知っているな」
サットンはあごひげをなでながら言った。
「大地の民、6人の守護者、3人の王者。我々はこれらの解釈に苦しんだ。そして もしもだ。これらが既に完全に滅び去った文明の物であり、そして我々の文明に 何ら悪影響を及ぼすものでなければ、別に何も問題は無い。ただの遺跡として、 考古学者の研究対象となるだけだ。あれだけ大量にあった石板だ、しかも1万年 前のものと来ている、さぞかし魅力的な研究対象になるだろう。だが!」
サットンはローガンの方に振り向き
「万が一、まだこれらがこの地球上のどこかに存在しており、そして我々の生活 を脅かす様なものであるとしたらだ、これらを即刻排除しなくてはならない。完 全にだ。我々は石板を発見して以降、世界中を調査した。あらゆる遺跡を調査し、 文献を探り、世界各地にある昔話や伝承といった類のものを研究したのだ。だが、 これらに関する限り、何も発見することはできなかった。何もだ。我々の調査は 行き詰まってしまったのだ。しかし、終にお前達を発見した。あの石板に刻まれ ている文字、あれは間違いなく古代アーン語であり、そこに書かれている内容は 大地の詩である。我々が発見した物と全く同じ内容だ。つまりお前達は」
サットンはあごひげをなでながら
「古代アーン人の末裔と言う事になる。そこでだ。我々としてはお前達の、いや、 君達の協力をお願いしたい訳なのだよ。もし、あの大地の詩が本物であり、我々 にとって危険な存在がまだこの地球上にあるのであれば、我々は何としてもそれ らを排除しなくてはならない。絶滅しているならそれで確証が必要になる。何で も良い。君が古代アーン人に関して知っている事を教えてくれればそれで良いの だ。そうすれば、村人達は無事に解放され、君達も元通りの平和な生活を送れる。 我々も枕を高くして眠れると言うものだ。何でも良いのだ。知っていることを教 えてくれ給え」
「知らんのう」
「何?」
意外な答えにサットンはあごひげを撫でながら訊き返した。
「知らぬと言うたのじゃ。あの石板の読み方すら、わしは今日まで知らなんだ。 お前さんがさっき暗唱してくれて、初めて意味を知ったのじゃからな」
「ふざけるな!」
思わずサットンは怒号した。
「1万年前の石板を、意味も知らずに今日まで代々受け継いできたとでも言うつもりか!」
言ってしまってから、サットンは心を落ち着かせて再びあごひげを撫でながら穏やかな口調に戻って
「いいかね。我々と君達が敵対し合う必要は何も無いはずだ。大人しく知っている事を話してくれさえすれば、全て丸く収まるのだ」
「だから、知らぬと言うておろうが」
サットンは急に口調を変えて言った。
「我々はできれば大人しく、平和的に解決したいのだが、そちらがそういう態度 を取るのであれば、こちらにも考えがあるぞ。何の為に村人達を人質としてとっ てあるか、考えてみるがいい!」
これにはローガンの表情も曇ってしまった。
「貴様次第だ、村人達の命はな!」
「良かろう」
ローガンは力無く立ち上がった。
「うん?」
「確かにわしは古代アーン人の末裔じゃ。アーン人について、幾莫かの知識が無い訳でもない」
ローガンは机に歩み寄ると、戸棚から小さな瓶を取り出した。
「アーン人の秘密を知る者はこの私1人じゃ。だが、その1人もこれで居なくなる」
言うや否や、ローガンは瓶の中身を飲み干した。ローガンはうめいた後、バッタリ と倒れてしまった。
「貴様!」
サットンは慌てて駆け寄ってローガンを抱き起こしたが、既に絶命していた。
「何と言うことだ、アーン人についての最後の手懸りだったのに」
サットンは絶句してしまった。しばらくそうしていたが、
「止むを得ん、引き揚げるぞ」
部下達に命じると、ローガンの遺体を置いて家を出た。
「首尾はどうたった、サットン?」
出し抜けに言われて振り返ると、メリッサが立っていた。
「メリッサ、どこに行っていたのだ?こちらはアーン人の最後の手懸りを失ってしまった。ローガンの奴は自殺したのだ!」
「何ですって!自殺・・。そう、でもまだあきらめるのは早いわ。ローガンには孫 が居たわ。エレという娘よ。そしてローガンは彼女をどこかに逃がそうとしていた。 エレなら、何かをローガンから伝えられていてもおかしくはないわ」
「では早速エレとやらを捕まえなくては」
「もう捕まえてあるわ。グレンが抱えている少女がそうよ」
メリッサの背後に1人の男が少女を抱えて立っていた。少女は気絶している様である。
「ローガンを失ったのは手痛い誤算だったけれども、この娘が居れば」
「何とかなるかもしれん。良し、エレを連れて行け、村人どもは解放してやれ。も う捜索する必要は無い」
サットン達がエレを連れて車に乗り込むと、装甲車とトラックは次々に引き揚げていった。
村人達は兵隊達がいなくなってから、しばらくして外に出て来た。
そしてローガンの遺体を発見して、村は悲しみに包まれた。
ローガンの遺体は村人の手で丁重に葬られた。