ピーターの家にて

 雨を降らせていた雲は晴れつつあったが、既に夕暮れの帳が降りつつあり、森の中もどんどんと暗くなっていった。
ピーターの家はグラスゴーの町の北部にある。
元々今日は人通りが少なかったので、ピーターの家までは誰にも見止めがれる事も無く着くことが出来た。
ピーターの家は石造りの2階建ててある。
母親のリンダが家にいるので、ピーターとエレは裏口から入って2階のピーターの部屋まで行った。
階段を登る音を聞き付けて、リンダは言った。
「ピーター?もう帰ったの?」
「あぁ、ただいま母さん」
「随分早いじゃないの」
「あぁ、えぇと、今日はちょっと体調が悪かったんで、早引けしてきたのさ」
「そう、大丈夫なの?」
「うん、今はもう大丈夫だよ」
ピーターはエレを自分の部屋の中に入れると、
「お腹減ってるだろう?何か持ってくるよ」
「ありがとう」
「ちょっと待ってて」
言って下に下りるとキッチンへ向かった。
「ピーター、帰ったのなら手を洗いさない」
リンダの声が聞こえた。
「はいはい、分かったよ母さん」
「はいは1回でいいのよ」
ピーターは手を洗うと、ビスケットを何枚か皿の上に取り出し、冷蔵庫からミルクを取り出してコップに注ぐと、2階へ向かった。
「何ですか、お行儀の悪い。下で食べなさい」
またリンダの声が聞こえてきた。
「お腹減っちゃったんだ、いいでしょう?」
「まったくもう」
少し機嫌の悪くなった母親をおいてピーターは部屋へ戻った。
「はい、どうぞ」
「どうもありがとう」
エレは礼を言ってからビスケットをかじり始めた。
ピーターは少しドキドキしてきてしまった。
1つの部屋に、異性と、それも誰が見ても可愛いと言える少女と2人きりで居るという状況に気が付いたのである。
慌ててピーターは窓のそばへ行って、外を眺めた。
真っ赤になった顔を見られたくは無い。
外は既に夕闇に包まれていた。
街灯が灯りだしている。
街中には家路を急ぐ人々が何人か居た。
因みにピーターの父親は航空会社に勤めている。
かなり出世しているので、仕事が多いのか帰りは遅い。
帰ってこないことも時々ある。
今日はおそらく帰ってこないだろうとリンダは言っていた。
そうこうする内に、エレはビスケットを食べ終えた。
ミルクも飲み終わった様だ。
「さて」
ピーターは言った。
「一体どこへ逃げれば良いものかなぁ?」
「私、自分の村を出る時におじい様に言われたの。隣村に居る、ドシェルって 言う人に匿ってもらえって。それで村を出たのだけれども、途中で奴らに捕 まってしまったのよ」
「一体奴らは何者なんだい?」
「良くは分からないわ。いきなりやって来たんですもの」
それからエレは自分の身に起こった事をぽつぽつと話し始めた。