旅立ち2

「ふん、オルテンに行きおったか」
ホテルと、とある一室において、部下の報告を聞いたダレン少佐はつぶやいた。
「良し、早速とッ捕まえに行くとしようか」
「ダレン少佐、少々お待ちを」
「何だ、サットン?」
「ここはもう少し泳がせておく方が得策かと思いますが」
「そうね、その方が良いわ」
「ほう、一体何故かね?」
「あのエレとか言う娘がそう簡単に口を割るとは思えません。前回も何を聞いても知らぬ存ぜぬで通しました」
「小娘の口を割らせる位、たやすい事だろう」
「制服組の悪い癖ですな。それよりもです。このまま放っておけば、やつらは黙っていても我々を目的地へ導いてくれるのではないでしょうか?」
「目的地?」
「あの娘は何か重大な秘密を握っています。そして我々に追われている事も知っています。 もし、このままオルテンに留まるのであれば、もちろん捕まえてしまえばよい訳ですが、 このまま放っておけば、何か動き出すのではないでしょうか?例えば、アーン人の連中に 連絡を取るとか。我々としては、あの娘どもの動きを見張っていれば、あとは勝手に奴ら が我々を導いてくれると思うのです」
「まどろっこしいのぅ。そんな事より一気に方をつけてしまった方が良くはないかね?」
「私もサットンの案に賛成します。と言うのも、もう一つ、ヨークシャーで我々を襲った 連中の事もあるからです。ラングレーが奴らはアーン人の末裔ではないかと推察していま す。もしそうだとすると、サットンの言う通り、あの娘が動き出すのを待ってからの方が 対策が立て易いと思います」
「ふーむ、まぁよかろう。私としては最終的にあいつらを捕まえれば良いのだからな。そ れにしても、列車を襲ったという連中は只者ではないな。あの列車の事は超極秘扱いだっ たそうではないか」
「はい、残念ながら、アーン人達は我々合衆国の中枢部まで浸透している可能性があります」
「わしの部下の中にもいるかも知れん」
ダレンはいまいましげに机を叩いた。サットンはあごひげを撫でながら
「既に対策は練られているようです。メリンゲ長官は優秀な方ですから、何がしかの対応はするでしょう」
「なるべく早く頼みたいものだ。神経が落ち着かん。ま、差し当っては、我々はここでのんびりしていれば良い訳だがな」
「そろそろ夕食の時間ですね」
「スイス料理が口に合うと良いがな」
ダレン達は立ち上がって、食事を摂りに1階のレストランへと向かって行った。

 翌日、ピーターはすっきりと目覚めた。
非常に爽やかな気分である。
朝日が窓から優しく差し込んでいた。
ピーターはこれから始まる旅が非常に素晴らしいものになるのではないのか、そう思わせるほど清々しい朝だった。

 昨晩、エレとは踊った後にいろいろ話した。
ナスカヤも一緒だった。
考古学に興味を持つピーターにとって、ナスカヤの話はどれもこれも興味を惹かれるものばかりだった。
エレもアーン人の事について、もう少し詳しい事などを話してくれた。
気が付けば深夜に及んでおり、3人は慌ててベッドに入ったのである。

 一同、起き出して来て食卓に着いた。
「それでは頂くとするか。料理は昨晩と同じく、どれもこれも絶品だよ」
ドシェルが言って、朝食が始まった。
料理はどれこれも確かにおいしかったが、昨晩の様に楽しい雰囲気にはならなかった。
これからする、危険な逃避行についての不安が、全員を押し包んでいたのである。
合衆国CIAと、それをすら子ども扱いにする超民族アーン人達を相手にして、一体自分達はどこまで戦う事ができるだろう?
ピーターならずとも、不安になるのは当然だった。
ドシェルは何とか場を盛り上げ様と盛んにいろいろ喋っていたが、ドシェル自身も不安に包まれていたので、昨晩の様には到底ならなかった。
 やがて食事が終わると、
「さぁ、荷物を整えた!」
ドシェルの声で各々自分の部屋で準備を整えた。
ピーターは荷造りをしながら思った。
これから、エレを守るための戦いが始まるのだ。
非力な自分がどこまでできるかは分からないが、やらない訳にはいかない。
なんとしても、エレを助けてやりたかった。
 全員準備が整うと、宿屋の前に停めてある車の前に集合した。
「気を付けてな。先ずはモッドの所まで、アーサーが案内する。途中充分に注意を払って くれ。アーサー、頼んだぞ。その後は飛行艇で日ひとっ飛びだ!」
「皆気を付けてね、体には特に注意するんだよ」
マーガレットが全員に弁当を渡しながら言った。
「ありがとう、ドシェルさん、マーガレットさん、おかげで助かりました」
「本当にどうもありがとうございます」
「今度の旅が終わったら、また来ても良いですか?」
「もちろんだとも、大歓迎だよ!」
「それでは行きます」
アーサーの声に、一同車に乗り込んだ。ピーターが助手席で、女性陣は後部座席である。
「ではしっかり頼むぞ」
「行って来ます」
アーサーは車を発進させた。いよいよミラの空間石を求めての旅が始まったのである。
「神様、彼らに幸運を」
「大丈夫だよ、マーガレット、彼らならうまくやりおおせるさ」
ドシェルとマーガレットは車が見えなくなるまで見送っていた。

「動き出したか」
報告を受けたダレン少佐は立ち上がった。
「サットン、お前の言う通りになったな」
「我々も早速追いかける事にしましょう」
「そうだな、奴らが一体どこへ目指しているのか分からんが、今度は逃さん。アーン人と やらも出てくるなら出てくれば良い。わしが直々にぶちのめしてくれる」
「さぁ、行きましょう」
メリッサの声で、一同部屋から出た。ホテル前に待機していた黒塗りの車に分乗すると、ピーター達の車を追って走り始めた。