アーン人の歴史2

 マーロンを前にしてアスカルは切り出した。
現在、アーン人の6つの部族の長達は、皇帝が 与えた6つの石の力を利用して、各大灯台を武装化している。
同様に、ソラの創造石、ミラの空間石、シドの時間石の力をを利用した兵器を作る事はできないか、検討する様指示を出した。
マーロン以下議会は直ちに討議を初め、枢機卿ナルーラにも意見を求め、終に3つの兵器の設計図を完成させた。
アスカルは設計図を基にマーロンから詳細な説明を受け、そしてこの3つの兵器を直ちに開発する様、指示を出した。

 先ず初めに創られたのが、ミラの空間石の力で動く兵器、スフィーネである。
スフィーネは翼を広げた大鷲の形をした超巨大空中要塞であり、ミラの空間石の力により空中を 自在に飛行し、凄まじいまでの爆撃を可能とする強力な砲台を多数装備していた。
外装は大灯台と同様の硬質の物質で覆われ、あらゆる攻撃を跳ね返せるようになっていた。

 次に創られたのが、シドの時間石の力で動く兵器、エイジャである。
エイジャは巨大な獅子の様な形をした超巨大要塞であり、現在で言うホバークラフトの原理で地上、水上を問わずどんな地形にでも移動できた。
しかもシドの時間石の力でその速度は超高速もしくは相手にとっては一瞬と思われる速さで移動する。
周囲を猛火に取り巻く為の砲台を多数装備し、スフィーネ同様、強固な外壁を持っていた。

 最後に創られたのが、ソラの創造石の力で動く兵器、アトラである。
アトラは他の2つとは大きく異なり、人間の形をした、非常に小さな兵器であった。
だが与えられた力は他の2つとは比較にならなかった。
気を創造し、そして全ての気を支配する力を持ったこの兵器はおよそアスカルを除いた全ての、 小石から人間、太陽に至るまでを自由に操る力を与えられたのである。

 こうして、3つの究極の兵器を完成させたアーン人のもとに、やがてアティア人の使者がやって来た。
内容はもちろん支配下に入る様、降伏勧告の使者であった。
この使者を受けて、議会は大いにもめた。
だがアスカルの腹は初めから決まっていた。
アスカルは敢然と降伏を拒否し、使者を追い返した。
これに激怒したアティア人の皇帝ディロスは直ちに軍勢を招集した。
たちまち10億人という圧倒的兵力が召集され、ディロスを先頭に終にアーン帝国に侵攻して来た。
その光景を大灯台から見守っていた、見張りのアーン人達は、その圧倒的軍容に戦慄した。
見渡す限りの大地が、全てアティア人の軍勢で埋め尽くされてしまったのである。
ディロスはこの段階で改めて降伏勧告の使者を送った。
だが前回同様アスカルはこの使者を追い返した。

 こうして、終にアティア人の攻撃が始まった。
アティア人は現在で言う鉄砲や大砲のような物を使用してまず遠距離攻撃を始めたが、この攻撃は全て大灯台と防壁に跳ね返されてしまった。
業を煮やしたディロスは全面攻撃の命令を下した。
10億人という圧倒的多数の兵士が僅か1200万人のアーン帝国目指して殺到した。
だがその時異変が起こった。

 あるアティア軍の部隊はいきなり炎に包まれた。
しかもその炎は次々と周辺の部隊に燃え広がっていった。
軍隊は大パニックに陥って必死で消火作業を始め様としたが、余りにも炎の広がり方が早過ぎ、 消火作業にあたっていた者まで炎に包まれてしまった。
部隊は次々と黒焦げの炭に変えられていったのである。

 またあるアティア軍の部隊は、いきなり凍り付いてしまった。
兵隊が全員氷の彫像と化してしまったのである。
驚いて叫び声を上げた他の部隊の者も、その格好のまま氷と化してしまった。
次々と氷の彫像が創られていった。

 またあるアティア軍の部隊は空から降ってきた光の矢に次々と刺し殺された。
まるで雨の様に降り注ぐ光の矢は、アティア軍の鎧や盾を軽々と貫いた。
一瞬にして何万人ものアティア軍の兵士が矢に貫かれた。

 またあるアティア軍の部隊はさけた大地に飲み込まれてしまった。
次々と地割れが発生し、その都度多数のアティア人は地底に飲み込まれていった。
逃げ場は無かった。逃げようとするその先の地面が裂け、アティア軍を次々と飲み込んだ。

 またあるアティア軍の部隊は闇の毒雲に包まれて窒息した。
毒雲はあっという間に広まり、何人ものアティア人が次々と死んでいった。
アティア人は死に物狂いで逃げ回ったが、闇の毒雲の広がり方の方が遥かに速かった。

 またあるアティア軍の部隊は真空の刃に切り刻まれた。
いきなり風が吹いたかと思うと、次の瞬間には細切れになったアティア軍部隊の残骸が残っていた。
逃げる暇はなかった。
まるで嵐のように風は荒れ狂い、次々とアティア人を切り刻んでいった。

 大灯台に拠る「6人の守護者」の前に、アティア人はアーン帝国に近寄る事すら許されなかった。
だがそれでも尚数的に圧倒的優位に立つアティア人はあきらめずに攻撃を続けた。
ディロスは怒り狂ってひたすら突撃を命じたのである。
余りの多さにさしもの「6人の守護者」にも手に余る様になり始めた。

 その時である。
攻撃に専念するアティア人の上空に、いきなりスフィーネが出現した。
スフィーネは圧倒的火力で下に居るアティア人達を虐殺し始めた。
それだけではない。
スフィーネに乗り込んでいたマーロンはミラの空間石の力で天空に隕石群を呼び寄せた。
数百万ものアティア人が一瞬にして阿鼻叫喚の渦に巻き込まれてしまった。
あるいは隕石に押しつぶされ、あるいは衝撃波に吹き飛ばされた。
アティア軍は大混乱に陥り、アティア人は悲鳴を上げて逃げまどい始めた。

 そして、またしてもいきなりアティア人のど真ん中に今度はエイジャが出現した。
エイジャはシドの時間石の力で時間を停めて移動したのである。
周りに居た数百万のアティア人は一瞬にしてエイジャの発する地獄の猛火に包まれてしまった。
エイジャは悪魔の様な速さで所狭しと走り回り、アティア人を虐殺して廻った。

 最後にアトラが出てきた。
アトラはいきなり灼熱の溶岩をアティア人の上空に創りだして、雨の様にそそがせた。
一瞬にして灼熱地獄が創られてしまった。
かと思うと、気による気功砲を発射した。
一発で何万ものアティア人を殺傷する破壊力を持つこの気功砲を、アトラは容赦無くアティア人に浴びせた。
もうこうなってくると、アティア人も戦意を失い、終には壊乱して遁走を始めた。
ディロスも最早兵を統率するどころではなくなり、逃走を始めた。

 だが3つの兵器はそれを許さなかった。
どこまでもアティア人を追い詰めていった。
アティア人はこの3つの兵器に対抗する術を持たなかった。
あらゆる兵器は歯が立たず、その前に一瞬にして数百万人単位で殺されてしまうのである。
この戦いは約1週間続いた。
その1週間、3つの兵器はどこまでもアティア人を追いかけていった。
アティア人の町は尽く破壊され、後には何も残らなかった。
終にディロスも戦死し、最後にはアティア人は絶滅してしまった。

 アーン人にすれば、アティア人をそのままにして置く事はできなかったのである。
支配するには余りにも人口が多過ぎた。
かといって放っておけば、必ずまたいつの日にか攻め寄せてくるだろう。
アーン人はアティア人を絶滅させるより方法は無かったのである。
こうしてアティア人は絶滅し、アーン人には平和が戻ったのである。
アーン人はこの大戦果をもたらした3つの兵器を王者とあがめるようになった。
そしてこの勝利を祝い、ある吟遊詩人が以下の様な詩を創ったのである。

大地の民は大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る
大地の民は大地に護られ、また大地を護るべし
大地の民は大地の国に栄える
大地の国は6人の守護者に護られたり

大地の民は3人の王者を頂く
第1の王者は天空の大鷲
第2の王者は地上の巨竜
第3の王者は全てを統べる全き者
大鷲は空間の主が司り
巨竜は時間の主が司り
全き者は創造の主が司る

大地の民は3人の王者と共に栄えるべし
なれど彼らもまたいずれは大地に還るべし
彼らもまた大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る宿命なれば