アーン人の歴史

 今からおよそ1万年前。
世界には現在とは異なった文明が幾つか存在していた。
アーン人達もその中の1つである。
彼らの身体的特徴は、身長は成人男性で平均170cm程、現在のモンゴロイドの様な皮膚を持ち、銀髪、緑色の目といった所である。
彼らは農耕民族であり、時々は狩もして肉食の習慣もあった様である。
 彼らは全部で6つの部族からなっていた。
それぞれの部族には長が居り、長達が集まって全部族の中から最も知力、体力共に優れた者を選出して皇帝とした。
皇帝には各部族から選りすぐりの者達がおよそ2千名、直属の近衛兵として付けられた。
皇帝は終身制であり、前皇帝が死ぬと新しい皇帝が再び長達によって選出された。
皇帝は絶対的な権力を持つが、暴走がおきない様にある一定の制限を加えられていた。
それは各部族から選出された者達が形成する議会である。

この議会は皇帝に対して一定の抑制を行うだけではなく、アーン人全体に関する事、例えば現在で 言う憲法や法律の類を作成し、運営していた。
議会では構成員が投票により宰相を選出した。
現在で言う首相兼議長である。
宰相は皇帝の補佐官になる。
皇帝の意思を議会に伝え、討議し、そして実行するのが役目であった。
議会の意向は各部族の長達に伝えられ、長達は各部族にその意向を伝える。
通常の政治はこの様に行われていた。

 異民族との戦争をする場合は、皇帝を総司令官として近衛兵の配下に各部族毎に長を部隊長として納まった。
アーン人は近衛兵以外には兵隊と言う者を特に創りはしなかった。
それはアーン人の驚異的な身体能力に拠る。
アーン人は全員幼少の頃より厳しい鍛錬を受ける。
その為、成人となる頃には素手で岩を破壊する位の、現在人から見れば驚異的な身体能力を持つ様になっていた。
この為、特に兵隊としての訓練をする必要はなかったのである。
普通に戦っても、大抵の場合は例え女性であっても異民族の成人男性を圧倒できるからである。

 農耕民族であるアーン人は大地を母とあがめ、大地に対して深い敬愛を抱いていた。
アーンと言うこの民族の名前も、彼らの言葉で大地と言う意味である。
彼らは自らを大地の民と呼んでいたのである。
もう一つ、彼らの信仰の上で欠かせないのが気(オド)である。
彼らは森羅万象に気が宿ると考えていた。
小石から太陽に至るまで、あらゆる物に気は宿る。
そして修行によってはその気を感じたり、自分の気を自在に操り、中には空中を飛行できる者も居た。
彼らは神官となり、そして神官の中から最も優れた者を枢機卿として選出した。
枢機卿はアーン人全体の信仰を司り、年に何回か行われる行事において大切な役割を果した。

 さて、今年と言ったが、アーン人は地球が365日をかけて太陽を1周する事を既に知っていた。
アーン人は数学、物理学、化学、天文学等にも驚異的な進歩を遂げていた。
それらの偉大な業績は、まず建築に応用された。
彼らの住居を作成する際に、正確に切り出された長方形の石、つまり現在で言うレンガの様な物を 作り出す際に利用され、そして発展して皇帝が住む為の白亜の大宮殿を建造する際にも遺憾なく利用された。
大宮殿は5階建てであり、最上階に皇帝とその家族が住む為の施設があった。
皇帝は世襲制ではないので、皇帝が死ぬと、家族は宮殿を出て元の住居に戻って行った。
大宮殿には新しい皇帝とその家族が住むのである。
大宮殿の次には議事堂、そして大聖堂が建てられた。
宰相と議員は議事堂に、枢機卿と神官は大聖堂でそれぞれ仕事を行った。
次いで、これらを中心に、正確に60°ずつ、円上に6つの大灯台が建造された。
これらは各部族に1つずつ建てられた物で、各部族の長はここに住まう様になった。
異民族の侵攻に対しての監視をここから行う様になり、以後各部族の長達はアーン帝国を護る、 「6人の守護者」と異名を取るようになった。

 アーン人はその後何度か異民族との小競り合いがありはしたが、常に圧倒的な勝利を収め、その文明はますます発展していった。
それは彼ら特有の気が大いに関係する様になった。
例えば乗り物にしても、現在の車は4本のタイヤで走っているが、アーン人の場合は風の気を操る事で、 ホバークラフトの様な乗り物を創る事に成功したのである。
それゆえ、この乗り物は地上だけでなく水上でも問題なく走った。
あるいは料理で現在はオーブンを使っているが、彼らは火の気を操って食物の周りに火を満遍なく巻きつける事ができた。
他にも気はアーン人の生活の上で様々に利用され、そして大神殿においてますます研究が進められていった。
そして終にある時、アーン人の歴史を一変する発見がなされた。
気の根源を解明したのである。
史上最高の枢機卿と呼ばれたディヌスが、気の仕組みを全て究明したのである。
だがディヌスにはその気の仕組みを利用出切る程の力を持っていなかった。
持っていたのは唯1人、時の皇帝ヌオールだけであった。

 ディヌスは直ちに大宮殿に赴き、ヌオールに全てを語った。
そして、ヌオールであれば、ディヌスの解き明かした、気の仕組みを実用化できる力がある事を話した。
実用化とは、つまり気を創造し、支配する事ができる、と言う意味である。
ヌオールは余りの事に時の宰相ライラに相談し、議会でディヌスの提案を実行するかどうか討議する様指示した。
議会は紛糾した。
気の創造は人類の範疇を超えた行為である、とする異論が出た。
激論の末、議会はディヌスを支持する事にした。これを受けてヌオールはディヌスから気の論理を 細部に至るまで再度学習し、全精力を込めてその論理を1つの石に注ぎ込んだ。
ヌオールは力尽きたが、ディヌスらに直ぐに治療された。
そして、その右手に握られた石はまばゆいばかりの光を放っていた。
「ソラの創造石」。
そう命名されたこの石は、気を創造し、支配する力を持っていた。
つまり自在に炎を創り出し、山を創り出し、あるいは他の場所へ瞬間に自分もしくは何かを移動 させ、かつ気の流れを止めたり逆流させる事で、時間を停めたり、逆行させる事すら出来た。
ただしこの石を使用できるのは、凄まじいまでの気の力を持った者にしかできなかった。
それゆえ、この石は皇帝が代々所有する事とされた。
これにより、ヌオールは絶対的な力を手に入れ、同時に以後皇帝は「創造の主」とも呼ばれる事になった。

 ヌオールは自分の手に入れた力を独り占めにはしなかった。
ソラの創造石の力から、空間を支配する能力を引き出し、「ミラの空間石」を創り、同時に時間を 支配する能力を引き出し、「シドの時間石」を創り出した。
ミラの空間石は宰相のライラに渡され、シドの時間石は枢機卿ディヌスに渡された。
それ以後、宰相は「空間の主」、枢機卿は「時間の主」の異名を取る事になった。
更にヌオールは6つの石を創り出し、各部族の長に渡した。
光を支配する「ジオの白光石」、
闇を支配する「マナの黒闇石」、
火を支配する「ミロの赤火石」、
水を支配する「ラーの青水石」、
土を支配する「ドニの黄土石」、
風を支配する「ムーの緑風石」
である。それぞれの石を受取った長達は、以後自分達の部族の呼称を改め、
光の部族は長を光と言う意味の「リーネン」、部族を「リネリア」とし、
闇の部族は長を闇と言う意味の「シュラクネル」、部族を「シュラクネリア」とし、
火の部族は長を火と言う意味の「フィリオール」、部族を「フィリオリア」とし、
水の部族は長を水と言う意味の「ネンデール」、部族を「ネンデリア」とし、
土の部族は長を土と言う意味の「アルバス」、部族を「アルバシア」とし、
風の部族は長を風と言う意味の「ウィンデール」、部族を「ウィンデリア」とした。

 こうして超絶的な力を手に入れたアーン人は、その後も順調に発展を遂げていったが、やがてある問題が起こった。
それはアティア人と呼ばれる、好戦的な民族の急激な発展である。アティア人はアーン人程 超人的な力を持った民族ではなかったが、周辺の民族を次々と侵略し、吸収し、その版図は絶大なものになっていた。
当時アーン人は約1200万人程の人口であったらしいが、アティア人は35億人もの人口を誇っていた。
その圧倒的な武力の前に対抗できる民族は無く、次々とアティア帝国の版図に組み込まれていったのである。
いずれ、アーン帝国にもアティア帝国の猛威が押し寄せる事は容易に予想された。

 直ちに議会が召集され、時の宰相マーロンの元で対策が練られた。
先ずは防御を固めるべく、6本建てられた大灯台を結ぶ形で、円形に長大な防壁が造られた。
防壁は厚く、高く、外敵を完璧に遮断できうる物であった。
そして大灯台は武装化された。砲台が設けられ、表面も更に強化された。
だが時の皇帝アスカルはこれだけでは充分とは到底思えなかった。
幾ら自分達の方が身体的、文明的に優れていても、余りにも戦力差があり過ぎた。
アスカルは憂慮の日々を送っていたが、ある時終に解決策を思いついた。
彼は直ちにマーロンを呼び出したのである。