ピーター少年

 さて、マッコイ書店を出たものの、ピーター少年には学校へ行く積りはなかった。
ピーター少年はどちらかと言うと引っ込み思案で、大人しい少年であった。
当然の様にいじめのターゲットにされる事はしばしばだった。
だがそれ以上に学校の授業と言うのも嫌いだった。
数学は大の苦手で、数字が並んでいるのを見るだけで頭が痛くなってきた。
国語はまあまあの成績であったが、生物、化学、物理等はぎりぎりと言った所である。
特に生物や化学の実験が苦手であった。
生物は動物を解剖する際の生々しさが駄目だったし、化学は薬品を混ぜ合わせた時の何とも言えない悪臭がだめだった。
体育は当然苦手で、よく体育教師にからかわれていた。
走る事はそこそこできたが、球技や体操はてんで駄目だった。
音楽は聴くのは好きだったが、音痴ときているので、歌わせられるのには閉口した。
その上、楽器で演奏するのも得意ではなかった。
だが歴史は好きだった。
ピーター少年のほとんど唯一得意科目と言ってもいい。
古代の歴史に思いを馳せる事はしばしばだった。
世界中の歴史や遺跡、文化に関する本は読み漁ったし、実際に行ったりもしていた。
と言っても、ごく近所にある遺跡に限られていたが。
もう一つ、ピーター少年の好きなのは本を読む事だった。
本と言っても、物語に限られていた。
歴史に関する以外の専門書等は、読んでいると頭痛がして来た。
だが物語だけは違った。
これに関してだけは本の虫と言ってもいい。
様々な物語を読んでは泣き、笑い、感動し喜んだ。
ピーター少年の好きな物語とは、自分が主人公と一体となって、様々な冒険が出来るものであった。
大人が良く読むようなミステリーとかには興味が無かった。
物語の本はピーター少年に取っては夢の世界への扉であったのである。
学校ではよく図書室に入り浸っていた。
終了時間が来て追い出される事もしばしばであった。

 そんな訳で、今更わざわざ学校へ行こうとはちっとも思わなかった。
それよりも今大事なのはこの抱えている本である。
ピーター少年にとっては憧れの人物であるカール・グレアム教授の書いた本である。
それはピーター少年にとっては、宝物も同然であった。
一刻も早くこの本を読みたかった。
ピーター少年は進路を北にとって森へ向かった。
ピーター少年は幼い頃よりこの森によく訪れては遊んでいた。
なので、自分しか知らない、様々な抜け道や特別な場所を幾つか知っていた。
この本を誰にも邪魔されずに読むとしたら、絶好の場所があるのだ。
ピーター少年はそこを目指す事にした。
森は薄暗い空の下で、不気味に静まり返っていた。
普段は良く聞かれる、鳥の鳴き声もほとんどなかった。
空はますます重く垂れ込め、雨が降るのは時間の問題になっていたが、ピーター少年が目指している所は沢山の木々が天然の屋根を作ってくれているので、雨が降っても別に問題は無い。
ピーター少年は森の中に入ると、いそいそとその例の場所に向かった。
森の中の小道を辿り、進んで行くと、やがて雨がポツポツと降り始めた。
ピーター少年は少し急ぎ足で例の場所に向かった。
段々と雨脚は強くなり始めた。
やがて例の場所まで辿り着いた。
ほっとして一息ついたが、次の瞬間にはギョッとした。
そこには先客がいたのである。