メリッサの回想2

 事態が動き始めたのは南米チリ沖でアーン人の遺跡が発見されてからだった。
情報を受取ったアメリカは直ちにアメリカ海洋大気局に命じて、遺跡の調査を行わせた。
その結果、同じ様に6本の柱の中心に建造物があり、中から石板が発見されたのである。
直ちに石板の解読が始まった。
解読はCIAの本拠地、ラングレーの一角に特別室を設けてそこで行われた。
「1万年前に栄えた文明だ、既に絶滅していると考える方が妥当だと思うがね」
CIA局長のメリンゲが言った。
「確かにそうですな。もしその文明が未だに続いているのであれば、我々はもっと高度な文明を持っていてもおかしくはないはずですからな」
副局長のマシューズが同調した。
「第一、昔に存在していたのであれば、何かしらの痕跡が残っているはずだ。昔話やら伝承やらにだ」
「そうすると、我々は全世界の昔話や伝承を調査するのですか?」
「調査完了の暁には、我々はミイラにでもなっているだろうよ」
その時、局員の1人が入って来た。
「何事かね?」
「は!例の石板に関して、幾らか調査の進展がありましたので」
「ほう」
「先ず1枚目に関してですが、これには大地の詩が刻まれていました。インド沖で見つかった奴と全く同じ内容です」
「なる程」
「それから他の2枚ですが、我ネンデールはここをネンデリアのモンドとする。我々は識者 のバロスとして3名の者をシュラクネリアへローガスする、と書いてありました」
「まださっぱり分からんが、シュラクネリアと言うのは、インド沖で見つかった、あの遺 跡の事だろうな。チリ沖はネンデリアと呼ばれていたと見るべきだろう。だがシュラクネ リアと言うのは部族の名前だったはずだな?」
「はい」
「と言う事は、部族の名前をそのまま地名にしたらしいな」
「ネンデールというのは、ネンデリアという部族の長みたいなものでしょうな」
「しかし、わざわざチリ沖からインド沖まで派遣するとは、あのインド沖の遺跡は余程重要な物に違いない」
「しかし、インド沖の遺跡と、チリ沖の遺跡は特に変わった点はありません。石板の枚数に弱冠違いがありますが」
「となると、調査が足りないと言う事になるな。インド沖はもっと綿密に調査する必要がありそうだ」
「では海洋大気局の者を派遣しましょう。丁度今中東は臨戦体制中ですし、インドもパキ スタンもお互いの事で手一杯です。我々が軍事演習をやっても、そうやかましい事は言い ますまい。演習と称して、徹底的にあの辺りを調査させましょう」
「良し、では早速手はずを整えてくれたまえ」
 こうして、インド沖に派遣された海洋大気局員の中に、メリッサとグレンが居たのである。
メリッサとグレンは早速古代シュラクネリアの遺跡から調査を始めた。
調査船シーゲル号で遺跡の上まで行くと、潜水して遺跡の調査を開始した。
「どう新しく見積もっても数千年前の物だわ」
メリッサは海上で待機しているドスコンに報告した。
「間違いなく人工物かね?」
「えぇ、非常に高度な幾何学の応用だわ。6本の柱は中心の建造物を取り巻いて、同心円上に正確に60°ずつ間を空けて建てられているわ」
「我々の知る文明ではないな」
「えぇ、違うわね。明らかに未知の文明よ」
その日は終日遺跡を調査したが、他に発見は無かった。
翌日から周囲の調査が始まった。
メリッサとグレンは再び潜水し、付近の海底を徹底的に調査した。
その結果、いくつかの建造物らしき物の跡が見つかった。
どうやら住居跡らしい。
更に調査を続けると、メリッサは1本の大きな石畳の道がある方向に伸びているのを発見した。
その道を辿って行くと、大きな岩盤にぶつかった。
地形の変化で、その先は埋もれてしまった様である。
メリッサとグレンはX線調査を行い、その岩盤の中に恐ろしく巨大な建造物がある事を発見した。
2人は即座にシーゲル号のドスコンに報告した。
直ちに日雇いの水夫達が掘削作業を開始した。
そして5時間後、終に建造物の天井に到達した。
更にその付近を掘削すると、天井には破損している箇所があった。
そこを広げてメリッサとグレンは建造物の中へと入る事ができた。
 建造物の中へ入ったメリッサは目を見張った。
そこは恐ろしい位広大な空間であり、中には図書館の様に大量の棚が置かれてあった。
そしてその棚には、何とおびただしい数の石板が置かれていたのである。
メリッサは興奮の余りグレンに抱きついてしまった。
「大発見よ!考古学上の大発見よ!人類の隠された歴史の1章がここにはあるわ!」
「うーん、でもどれも見たこと無い文字ですね」
「えぇ、これは例のアーン人の文字だわ。きっとここはアーン人の記録保存所みたいな物なのよ!」
2人はひとまずシーゲル号に戻り、興奮してドスコンにこの事を報告した。
ドスコンも興奮の余り叫んでしまったが、取り合えずその日はもう夕暮れ時だったので、引き揚げる事にした。
ドスコンはその夜の内にこの大発見をジャベール海軍少佐に電報で報告した。
ジャベールはそれを直ちに第5艦隊司令ザベッジに報告し、サベッジはそれをワシントンへ報告した。