メリッサの回想

 メリッサはシートをリクライニングさせると、この事件の始まりについて考え始めた。

 そもそもの始まりは、考古学者カール・グレアム教授がインド洋沖で発見した遺跡である。
カール・グレアム教授は世界的に著名な考古学者であり、これまでに数々の新発見をしては世界を驚かせてきた。
そのグレアム教授が調査対象としたインド洋沖で、謎の人工物を発見した。
それは6本の巨大な柱に囲まれた、四角い建造物である。
明らかに人の手によるものであるこれらの遺跡は、どう考えても建造後1万年は経過している様に思われた。
まだ人類が文明を持ったとされる時期よりも遥かに前である。
グレアム教授はこの発見に興奮し、更に綿密に調査を行った。
そして調査体制を強化する為、すぐさま本国イギリス政府に援助を仰いだ。
イギリス政府はこの要請に応え、新たな調査団を編成して送り込んだ。
やがてグレアム教授は中央の建造物に入口がある事を発見し、内部の部屋から数枚の石板を発見した。
石板には解読不能な文字が刻まれていた。
グレアム教授は文字の解読に挑む一方、かつてこの遺跡があった場所は水面上にあり、長年に渡る水面上昇と地盤沈下があいまって現在の様に水没してしまった事を突き止めた。
 そして、グレアム教授は苦労した挙句に、1枚の石板だけは何とか解読する事に成功した。
一番文字の数が少ない石板で、それにはこの様に刻まれていた。

大地の詩

大地の民は大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る
大地の民は大地に護られ、また大地を護るべし
大地の民は大地の国に栄える
大地の国は6人の守護者に護られたり

大地の民は3人の王者を頂く
第1の王者は天空の大鷲
第2の王者は地上の巨竜
第3の王者は全てを統べる全き者
大鷲は空間の主が司り
巨竜は時間の主が司り
全き者は創造の主が司る

大地の民は3人の王者と共に栄えるべし
なれど彼らもまたいずれは大地に還るべし
彼らもまた大地に生まれ、大地に育ち、大地に還る宿命なれば

 以上まで調査を終えたグレアム教授は、石板を持って一旦帰国した。
更に石板を詳細に調査する為である。
イギリス考古学界が総力を挙げてこの謎の文章に取り組んだ。
その結果分かった事は、かつて自分達をアーンと呼ぶ人類が存在した事、そしてそ のアーン人はいくつかの部族に分かれていて、かつては陸地であったインド 洋沖に住んでいた部族はシュラクネリアと呼ばれる部族であった事だった。
それで全部だった。
これ以上は石板は解読不能で、そして大地の詩の意味もさっぱり理解できなかった。
だが6人の守護者、3人の王者、空間の主、時間の主、創造の主と言った文言は注目された。
これらが一体何を指しているのかは不明であるが、前後の文面からして、どうも何かの兵器なのではないか、という疑いが持たれたのである。
古代アーン人はインド洋沖の遺跡を見ても分かる通り、非常に発達した建築技術を持っていた。
そして非常に高度な文明であった事は、しっかりとした言語を持っていた事からも分かる。
もし、この文明が太古に完全に滅んでしまったのであれば、 大地の詩に出てくる事も全て過去の事として無視しても良いが、万が一未だ発見さ れない地球上のどこかにこれらが隠されており、現存するのであれば、非常に大き な脅威と成り得る。
現にインド洋沖の遺跡も今まで発見されなかった以上、その可能性を捨て去る事は決してできる事ではない。
 以上の事から、このアーン人に関する事は一切極秘とされた。
イギリス政府はあらゆる機関を動員して、極秘裏にこのアーン人について調査を開始したのである。
ところが、これが合衆国CIAの知る所となってしまった。
CIAはイギリスが何をそんなに必死になって調査しているのか、全力を挙げて調査を開始した。
そして終にアーン人の秘密を知るに至ったのである。
その際に、イギリス対外諜報部MI6とCIAとの暗闘があり、数名の犠牲者が出てしまった。
アメリカは、イギリスが古代アーン人の兵器を発見し、自分達で独占しようと試みていると断定して猛烈な抗議文を送りつけた。
イギリスも、アメリカと対立するつもりは毛頭無く、しかもアーン人の事が漏れてしまった以上はむしろ協力するよりない、との結論に達した。
たまたま、この時アメリカ大統領ジョンスンはヨーロッパを訪問中だった。
すぐさま、イギリス首相アシュレーとジョンスンとの間でトップ会談が持たれ、このアーン人に関す る限りはお互い協力し、もし兵器を発見した場合は共同で管理する旨を確認し、合意に達した。
こうして両国の協力体制か築かれたが、問題となったのはイギリス内部に居るアメリカのスパイである。
今回のアーン人情報漏洩の原因となったこのスパイは、やがてMI5によって特定され、逮捕される前に第3国へ逃げてしまった。
こうして多少のしこりは残ったが、アメリカ、イギリス両国は全力を挙げてアーン人の調査に乗り出した。
だが依然として何も手懸りは掴めないままだった。