追跡者2

 ピーターが向かった場所は警察署だった。
何人もの警察官でごった返していた。
ピーターは受付らしき所へ行くと
「すいません、あのう、リチャード・バーンズ巡査は居ますか?」
と初老の警察官に尋ねた。
「リチャードかい?あぁ、居るとも、ちょっと待っててくれ」
言うと、談話室の方に向かって
「おいリチャード!お客さんだよ!」
と怒鳴った。リチャードはしばらくしてからやって来て、ピーターを見た。
「おぉ、誰かと思えば昼間の同志じゃないか。早速の再会は嬉しいが、一体何の用かな?」
「ちょっとここじゃ話せないんですけど」
「じゃあ、こっちで話そう」
言って、リチャードはピーターを談話室の片隅に案内した。
机と椅子が、仕切りで区切られて何組かあり、その内の一番端に席を取って
「さぁ、ここなら話せるだろう。一体どうしたんだい?」
「実は今日、家に3人組が来て、女の子の事を尋ねたんです」
「あぁ、昼間のニュースでやっていた件でね。今警察でも全力を挙げて捜索中さ。 かく言う俺もさっきまでひたすら聞き込みをやっていたんだ。またしばらくしたら、でかけるけどね」
「あの人達、警察の人なの?」
「いいや、彼らはアメリカ人さ。何でも米国海洋大気局の職員とCIAの腕利きらしいけど」
「CIA?」
「あぁ、いずれにせよ、ただ事じゃないらしいな。今も俺達警察だけじゃなくて CIAの奴らも捜索にあたっているらしい。最も、奴らは身分を明かせないから極 内密にやっているらしいが。そんな訳で、俺達もただの事件とは違ってひたすら こき使われているのさ」
「そうなんですか」
「で、話って言うのはその事なのかい?」
「あの、そのぅ、これから話す事は絶対に秘密にして欲しいんですけれども」
「こりゃまた改まって。まぁばらすなって言うんなら別に構わんけれどもね」
「誓って頂けますか?」
「やけに真剣だな。よろしい」
リチャードは右手を挙げて
「私リチャード・バーンズはこれから聞く話を神に誓って他言は致しません」
と言った。
「さぁ、これでいいかね?」
「はい、実はそのぅ、その女の子は僕の家に居るんです」
「何だって!」
思わずリチャードは叫んでしまった。
それから慌てて周りを見回して
「いや、すまん、しかし一体何だってその女の子が君の家に居るのかね?」
「それが、エレ、女の子の名前ですけど、エレは森の中で倒れていたんです。 それで僕と会って、家まで連れて行ってあげたんですけれど」
「うーん、学校をさぼった事は兎も角として、まさか君の家に居るとはねぇ。 それで、一体どうする気なんだい?それを言いに来た訳じゃないんだろう?」
「実はそうなんです。エレからいろいろ話を聞いたんですけれど、エレはあい つら、今日来た3人組の連中にさらわれていたらしいんです」
「つまりは誘拐されていたという事かね?」
「そうなんです。あいつら、エレが逃げちゃったからまた捕まえようとしているんですよ」
「分からんなぁ。何だってそこまでして奴らはあの女の子、エレを捕まえようとするんだね?」
「エレは奴らが知りたがっているある秘密を知っているんです。奴らはその秘 密を知ろうとして、エレのおじいさんを殺したんです」
「何だと!」
「その後エレは捕まっていたらしんですが、隙を見て逃げ出したんですよ」
「なる程ねぇ。事情は全く逆で、奴らが誘拐しようとしている訳だ。保護する 等とぬかしやがって。こいつは臭いな、大いに臭い。何かとてつもない裏があ るぞ。で、ピーター、君はエレをどうするつもりかね?」
「エレはおじいさんから逃げ場所を教えられていたんです。そこまでエレを逃がしてあげたいんですよ」
「だが、今ここいらは厳戒態勢だぞ。さっきも言ったが、この事件は普通の事 件とは扱いが違う。幹線道路にも検問所が出来てる位だ。その内森も徹底的に 捜索されるはずだ。どこに行っても見つかってしまう」
「だからリチャードさんにお願いしたいんですよ」
「俺に何をしろって言うんだ?」
「僕達を空港まで連れて行って欲しいんですよ」
「空港までって、一体何キロあると思ってるんだ?」
「でもこのままだとエレが奴らにまた捕まっちゃいますよ!」
「うーん」
リチャードはしばらく考え込んでいたが
「分かった、仕方無い。誘拐させる訳にはいかんからな。有給でも取って何とかしよう。署長にお目玉喰らわなきゃいいが」
「ありがとう、リチャードさん!」
「か弱い少女は護ってやらないとな。よし、そうと決まったら後はいつやるかだ。なるべく早いうちがいいな」
「はい、こっちはいつでもOKです」
「じゃあ明日早速行くとしよう。君の家はどこだね?」
ピーターが住所を言うと、
「明日の朝一で行く。準備をして待っていてくれ。後は署長のお説教だけが問題だな」
「本当にありがとうございます、リチャードさん」
2人は握手をすると、席を立って談話室を出て行った。
2人が居た席の隣の仕切りに座っていた男が、あごひげを撫でながらこう言った。
「さて、やっと見つけた訳だ」
サットンだった。