追跡者

「大変だったねぇ」
エレの話を聞いたピーターはしみじみ言った。
自分と同じくらいの歳の、しかもか弱そうな少女がそんな危険な体験をしていようとは。
ピーターには想像もできなかった。
「でも、君のおじい様はオルテン村のドシェルって人の所へ行けって言ったんだろう?」
エレはうなずいた。
「じゃあ、やっぱりオルテン村に行った方が良いんじゃないかなぁ?」
「でも私、ドシェルって人の事を全然知らないのよ。」
「でも他に手懸りは無いし。ちょっと待ってて、地図を持って来よう」
ピーターは言うと、階下へ降りていった。
エレは所在無気にピーターの部屋を見回していた。
大きな本棚には本がぎっしり詰まっている。
それだけでは足りずに、床の上にも積み上げてあった。
壁には色々な遺跡の写真が貼ってある。
自分で行って撮って来たのもあるみたいだ。 机の上にはピラミッドの模型があった。
立ち上がって窓から外を見てみると、夕暮れのグラスゴーの町並みが広がっていた。
エレは自分のアーラウ村の夕暮れを思い出していた。
農村なので、ここの様に街灯等は無い。
牧歌的村に育ったエレには少々窮屈な風景だった。
が、街灯の下を歩いていく3人組みの顔を見てエレは固まってしまった。
間違いなく、サットン、メリッサ、グレンである。
慌てて窓から身を引いたが、体が震えて止まらなかった。
もし今度捕まってしまったら、どんな目に遭わされるか。
考えただけでもぞっとする。
彼らはしかし一軒一軒廻っているらしく、やがてピーターの家にもやって来た。
「ごめん下さい」
メリッサが玄関のベルを押した。
「はい、何でしょう」
リンダが応対に出た。
「こんばんは。警察の者ですが、この女の子を見かけませんでしたでしょうか?」
そう言ってメリッサはエレの写真を見せた。
エレが眠っていた間に撮ったらしい。
「さぁねぇ、見た事もありませんが、あぁ、今日のニュースで出ていた娘さんね?」
「そうなんです。不幸な事故でした。私の方は助かりましたが、この娘が行方不明でして、 現在全力を挙げて行方を追っているのです。誘拐とかにでもあったりしてたら・・・」
丁度その時、地図を抱えたピーターが通りかかった。
「君、君はこの少女を見なかったかね?」
サットンはピーターにエレの写真を見せた。
ピーターは内心ドキッとしたが、
「うちのクラスにこんな子はいないよ」
「この辺に住んでいる訳じゃない。乗っていた飛行機が墜落してしまって、行方不明になってしまったんだ」
「ふうん」
「だから、一刻も早く保護してあげないといけないんだ。分かるね?」
「お願いします、もし見かけたら直ぐに連絡をお願いしたいのです。ご協力をお願いします」
「分かりました。直ぐにお知らせしますわ」
「ではくれぐれもお願いします」
言うと、サットン達は次の家に向かって行った。
ピーターは慌てて階段を駆け上がった。
エレは部屋の中で震えていた。
「あいつらなんだね?」
エレは微かにうなずいた。
「どうしよう、あいつらこの辺一体を全部嗅ぎまわっているよ。それに警察の者だって言っ てたから、警察もあいつらの味方だ。検問とかやっているかもしれないよ」
「私、逃げられるかしら?」
「とりあえず、何とかここを脱出して、ドシェルって人の所まで行くしかないね。問題はどうやって行くかなんだけれども」
ピーターは考え込んだ。しばらくして、
「そうだ、いい方法があるよ」
何か考えついたらしい。エレは縋るような目でピーターを見た。
「でも、母さんにも相談しなくちゃ。どうしても必要なんだ、エレ良いだろう?」
エレはうなずくよりなかった。
最も、リンダは理解の無い人間ではなかった。
エレの今までの話を聞くとまるで自分の娘の事の様に嘆き、
「大変だったろうねぇ。そんな目に合わされるなんて。ここにいる間は大丈夫よ。誰が来た ってあなたを渡したりするもんですか」
と大いに同情した。
「それでピーター、あなたどうするつもりなの?」
「お父さんに頼んで、荷物の中にまぎれて飛行機に乗っちゃうんだ」
「なんですって?」
「多分、道路とか空港だと奴らが見張っている。だから荷物の中に入っちゃえば、あいつらの目をごまかす事ができるよ」
「そんな事、できるかしら?」
「お父さんに頼めば、きっとやってくれるよ」
「それはそうだろうけれど、でもどうやって空港まで行くつもりだい?」
「うーん」
ピーターはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を輝かせて
「大丈夫、良い方法があるよ」
言うと、エレに家に居る様に言って家を飛び出していった。
「あの子、一体どうするつもりかしら?」