エレの話8

 突然の警報ブザーにサットンは慌てて窓際に行って外をみた。
グライダーのような物に乗った全身黒尽くめの人間達が約10名ほど、列車に沿って飛んでいたが、やがて加速していくと先頭車両の天上に次々と降り立ち始めた。
「侵入してくるぞ!」
どこからか、誰かが叫んだのが聞こえ、続いてガラスが破られる音が聞こえた。
途端に銃声が鳴り響き、壮絶な戦いが開始された様であった。
侵入者達は次々と警護の者達を倒していくが、黒服達がどこにそんなに乗っていたのか、続々と部屋から出てきては迎撃に当っていた。
侵入者達は遮蔽物をうまく利用してどんどん後方に迫ってくる。
銃声はだんだん近くで聞こえるようになってきた。
「ちっ、役立たずどもめが」
サットンが呪いの声を上げると、メリッサの方を振り向き
「君はその娘を連れてこの列車を脱出したまえ」
と鍵を渡して言った。
「分かったわ」
メリッサは鍵を受取ると、エレの腕を掴んで
「さぁ、こっちよ、いらっしゃい、早く!」
と最後尾の車両に連れ込んだ。
驚いた事に、最後尾の車両の中には小型ジェット機が格納されていた。
サットンはメリッサとエレが最後尾の車両に乗り込んだのを確認すると、連結器を切り離した。
そして先程の部屋に戻り、グレンに
「君は侵入者どもを支えていてくれたまえ」
言うと、無線機を使って救援を求める打電を始めた。
グレンは前進し、黒服達が作っていたバリケードのところで一緒になって侵入者達を食い止めていた。
流石にこのバリケードを突破するのは侵入者達にも至難の技の様である。
凄まじい弾幕が侵入者達が隠れ居ている遮蔽物に浴びせられていた。
ちょっとでも動こうものなら、蜂の巣にされてしまう。
 一方メリッサはエレをジェット機の後の席に押し込むと、自分は前の席に乗り込んで
「ベルトを締めなさい」
言うと、自分もベルトを締めてリモコンのボタンを押した。
すると天上が両開きに開き始め、床が徐々に傾いて30°位の傾斜になった。
更に床が伸びて滑走路が出現した。
「しっかり捕まっていなさい、行くわよ!」
叫ぶと、メリッサはエンジンを始動し、ジェット機を発射させた。
 サットンは相変わらず無線機に取り組んでいたが、気配を感じて飛びのいた。
侵入者の手刀がサットンが居た場所を掠め無線機を粉々にしてしまった。
侵入者は続け様にサットンに手刀を浴びせたが、サットンは驚いた事にそれを受け止めた。
侵入者は明らかに動揺した。
無線機さえ破壊した自分の手刀をまさか受け止めるとは思わなかったのである。
「伊達に訓練を受けている訳じゃないんでね」
言うとサットンは侵入者に蹴りを喰らわせた。
侵入者は扉まで吹っ飛ばされた。
だがその時もう1人の侵入者がやって来た。
こちらも初めの侵入者が吹っ飛ばされている状況を見て多少動揺したようだが、直ぐにサットンにかかって来た。
今度の奴は先程の奴より遥かに強かった。
サットンは何とか凌いでいたが、隙を見て初めの奴がサットンに当身を喰らわせた。
サットンは倒れこんでしまった。
「一体何者でしょう?」
初めの奴が訊いた。
「さぁな、いずれにしろ、只者ではないな。我々と戦える人間が居るなんて、聞いていなかった。だが今は他の奴を黙らせる事が最優先だ、行くぞ」
2人の侵入者はバリケードを護っていた黒服達を後から次々と倒していった。
それを見て貼り付けにされていた侵入者達も一斉に襲い掛かり、グレン達は全員気絶してしまった。しかし
「おい、例の娘が居ないぞ」
「そんなバカな事があるものか、確かにこの列車に乗せられている、との報告だぞ」
「探せ、どこかに隠れいてるかもしれん」
侵入者達は一斉に捜索にかかったが、その内に1人が
「あれを!」
と飛んでゆく小型ジェット機を指した。
「しまった、こいつらあんな物まで用意していたとは」
「追いかけますか?」
「駄目だ、とてもじゃないが速さが違う。追い付くのは不可能だ。こうなった以上仕 方がない、撤収するぞ」
言うと、侵入者達は次々と疾走する列車から飛び降りた。
そしていずこかへ去って行 った。
 脱出したメリッサとエレだったが、生憎の天候不順で、乱気流に巻き込まれていた。
メリッサは決して操縦が下手な方ではなかったが、とてもまともに飛行できる天候では無かったのである。
ジェット機は気流に巻き込まれてキリモミ状態になってしまった。
「仕方が無いわ、脱出するわよ」
言うと、メリッサは脱出レバーを引いた。
メリッサとエレは空中へ放り出され、パラシュートが開いてゆるゆると降下を始めた。
ジェット機は眼下に広がる森の中に墜落してしまった。
2人はなんとか森の中に着陸した。
「あなた、大丈夫?」
メリッサはエレが無事な事を確かめると、
「いずれにしても、救援を求めなければ。ちょっと待っていなさい」
と携帯用無線機に取り組み始めた。
エレはそうっと木の枝を拾い上げると、メリッサの後に忍び寄り、頭を思いっきり引っ叩いた。
メリッサは気絶して倒れてしまった。
エレはメリッサから鍵を取り返すと、よろよろと森の中へ歩き始めた。
そしてしばらく進むと、開けた場所に出たので、そこで倒れこんでしまった。
どっと疲れが出てきて、そのまま泥の様に眠り込んでしまったのである。